泉 麻人【東京深聞】梅屋敷で遅めのモーニング『きりん珈琲』(大田区・大森西)~ぐるり東京 町喫茶さんぽ~

2022年8月5日 10時00分
 

泉麻人さんとイラストレーターのなかむらるみさんが、東京の喫茶店をめぐる街さんぽエッセイ。さんぽ途中で町の喫茶店を訪れ、店の生い立ちなどをマスターに深く聞きます。今までの「東京近郊気まぐれ電鉄」もバックナンバーとしてお読みいただけます。

梅屋敷で遅めのモーニング『きりん珈琲』

 京急の蒲田の手前に梅屋敷という駅がある。各駅停車しか停まらない小さな駅だけれど、その風情ある駅名には魅かれる。何年か前に高架になったホームを下りて改札を出ると、目の前に傘を並べた古い洋服屋が1軒だけぽつんと残っている。そのすぐ向こうまで拡幅工事が進む第一京浜のサラ地になっているから、この店ももうすぐ立ち退いてしまうのかもしれない。
 そんな第一京浜脇の蒲田方向のサラ地の先にこんもりとした木立が見えるけれど、そこが梅屋敷の本拠。戦前から公園化されているが、そもそも「和中散」という“食あたり”の薬を江戸時代に販売していた山本家の梅園(茶店もあった)だった場所らしい。いまも小池のまわりに数本の梅が植わっているが、ここはどう見ても拡幅道路の用地だから、どうなってしまうのだろう。

梅屋敷の地名の由来となった地として知られる「聖蹟蒲田梅屋敷公園」。

 すぐ裏の京急線の向こうに立つ赤い鳥居(椿神社)の辻から斜めに延びる道を進んでいくと、梅屋敷の駅前から西方へ直進する商店街に行きあたった。<ぷらもーる梅屋敷>というアーチ看板が掲げられたメインストリートだ。

青果店や個人商店など約140店舗ある活気のある商店街。

 歩いていくと左手に「琵琶湖」という喫茶店があったが、この店は何度か訪ねたことがある。調べてみると、最初に訪れたのがこの東京新聞で20年くらい前にやっていた<僕が初めて降りた駅>という連載取材のときだった。琵琶湖の名が気になって入ったのだが、御主人の先代が近江の方の人(ビワコ屋という乾物屋に奉行していた)だった、という由来を伺った。
 喫茶店、クリーニング屋、青果店…個人商店が並ぶ、いかにも暮らしやすそうな町の商店街。交差する広い通り(桜新道、東邦医大通り、などと呼ばれる)を渡った先に見えてくる「きりん珈琲」というのが今回の訪問店である。

商店街をずっとまっすぐ歩いていき、喫茶店に到着。

 一般住宅の1階に入った、小ぢんまりとした喫茶店。店を仕切っているのは、大原明日香さんという若い女性だ。喫茶店の女店主というと、物静かな、アンニュイなタイプを思い浮かべがちだが、彼女は実にシャキシャキとしている。厨房の青年にメニューの指示を出しつつ、常連風のお客さんと談笑、僕らの取材にもハキハキと応対して、いつの間にか彼女も厨房で調理や盛り付けのサポートをしている。なんだか喫茶店を舞台にしたドラマのヒロイン、のようだ。
 この10月で3年目に入るというが、メニューは軽食もスイーツもなかなか凝っている。<モーニングメニュー>と但し書きして、厚焼きたまごサンド、あずきトーストなどが紹介されているが、たとえば前者はチーズ、明太子、きんぴらのトッピングができて、また後者も小豆×クリームチーズ、小豆×バター、小豆×ホイップクリーム…といったヴァリエーションが楽しめる。

モーニングメニューは10時半まで。<右>厚焼きたまごサンド(550円)<左>チーズと明太子入りの厚焼きたまごサンド(+220円)

 「岐阜の多治見で生まれ育ったんですが、名古屋圏ではともかくモーニング(セット)が充実しているんですよ。小さな頃から、日曜日に家族で喫茶店に行ってモーニングを味わうという習慣がありまして…そんな和やかな光景がこの店のベースになっている、というのはありますね」
 厚焼きたまごサンドはモーニング以外でもオーダーできる(取材時はランチ前の11時台)というので、それともう一つの看板メニュー、カレーライスをいただいた。角煮で使うような厚切りの豚バラ肉、ジャガイモ、ニンジンがゴロッと入ったカレーは、ライスが珈琲で炊かれている(茶色い)というのもおもしろい。その名も正確には「珈琲ライスの自家製スパイスカレー」という。そして、カレー、コーヒーなどの容器の多くは、店主の地元の美濃焼が使われている。

珈琲ライスの自家製スパイスカレー(850円)。サラダとドリンク付きは11時半~13時半まで。

 そう、きりん珈琲の「きりん」はもちろん子供にも人気の動物・きりんがもとらしいが、店に掲げられたイラスト(マスコットマーク)を見て、なるほど…と思った。きりんの足跡というのはコーヒー豆にそっくりなのだ。

今回訪れた喫茶店

きりん珈琲
住所 東京都大田区大森西7-7-20 1F
電話番号  03-6424-4275
営業時間 火曜日 14:00~20:00(不定休)
     水曜日~金曜日 7:00~20:00
     土曜日・日曜日 8:30~20:00
定休日 月曜日

※新型コロナウィルスの影響で、掲載したお店や施設の臨時休業および、営業時間などが変更になる場合がございます。事前にご確認ください。
※2022年7月15日時点での情報です。
※料金は原則的に税込み金額表示です。

PROFILE

◇泉麻人(コラムニスト)
1956年東京生まれ。慶応義塾大学商学部卒業後、編集者を経てコラムニストとして活動。東京に関する著作を多く著わす。近著に『黄金の1980年代コラム』(三賢社)『夏の迷い子』(中央公論新社)、『大東京23区散歩』(講談社)、『東京 いつもの喫茶店』(平凡社)、『1964 前の東京オリンピックのころを回想してみた。』(三賢社)、『冗談音楽の怪人・三木鶏郎』(新潮新書)、『東京いつもの喫茶店』(平凡社)、『大東京のらりくらりバス遊覧』(東京新聞)などがある。『大東京のらりくらりバス遊覧』の続編単行本が2021年2月下旬、東京新聞より発売された。
◇なかむらるみ(イラストレーター)
1980年東京都新宿区生まれ。武蔵野美術大学デザイン情報学科卒。著書に『おじさん図鑑』(小学館)、『おじさん追跡日記』(文藝春秋)がある。
https://tsumamu.tumblr.com/

◆書籍本のお知らせ◆

待望の街コラム散歩エッセー 第2弾『続 大東京のらりくらりバス遊覧』として書籍化!
泉麻人 著  なかむらるみ 絵
定価1,540円(10%税込)
四六判 並製 214ページ(オールカラー) 
あの路線のあのツウなスポットをバスで探索する、ちょっとオツなバス旅エッセー待望の第2弾!“バス乗り”を自認する泉麻人さんが、人間観察の達人・なかむらるみさんを相棒に路線バスで東京あたりを探索。訪れたのは、有名どころから「東京にこんなところがあるの?」という場所、読むとお腹がすきそうな美味しい店や、完全に泉氏の趣味な虫捕りスポットなど盛りだくさん。面白い名前のバス停もしっかりチェックしています。
日々進化を遂げる東京(とその周辺)のバス旅、あなたも楽しんでみてはいかがでしょう。
第2弾『続 大東京のらりくらりバス遊覧』書籍の⇒ご紹介はこちらから
第1弾『 大東京のらりくらりバス遊覧』過去2年分(第1話~第24話)

関連キーワード


おすすめ情報