がん基礎研究 若手確保を 学会がCF活用・将来性ある試み表彰 資金不足・不安定待遇改めて

2022年7月28日 08時03分
 がん治療につながる基礎研究を担う研究者が減っている。危機感を抱いた日本癌(がん)学会は若手研究者の定着と増加を図るため、将来性のある研究の表彰や、大学生向けの講演の企画といった対策に乗り出した。国公立の大学や研究所が主に担う基礎研究が人材不足で細れば、治療の進歩も滞りかねない。若手研究者からは研究資金の不足、不安定な身分などの問題にも目を向けてほしいとの声が出ている。 (小林由比)

 「自由な発想から誰も知らないことを発見し、成果が医療に還元されるところにやりがいがある」。東京大医科学研究所で、がん研究に従事する助教の伊東剛さん(37)=写真=はこう話す。目指すのは、難治がんの小細胞肺がんを早期に高い確度で発見できる腫瘍マーカーの開発だ。
 しかし、伊東さんも所属する癌学会では、四十歳未満の研究者が年々減っている。二〇一六年の三千九百五十三人から、二一年には三千七十四人となった。
 同会は将来の研究を危ぶみ、昨年から秋の学術総会で、まだ成果や形になっていない若手の研究を審査し、将来性があれば表彰して賞金を渡すことにした。この若手研究者支援プロジェクトに携わる伊東さんは「研究途上で受けられる賞は少ない。三〜五年かかる研究に前向きに取り組む動機になる」と期待を込める。研究者にとって受賞歴は、就職などのキャリア形成でも重要になる。
 プロジェクトのもう一つの特色は、賞金の資金をクラウドファンディング(CF)で集めることだ。「日本では、生涯で二人に一人ががんにかかる。治療を発展させたいと若手が取り組む研究について、広く一般の人に知ってもらう機会にしたい」
 昨年は集まった約七百三十万円の一部で六十五人を表彰。それぞれに賞金二万五千円を贈った。表彰された人からは「一般の方からのがん研究に対する応援や期待が感じられ、『難治がんを治す』との思いを再確認できた」「取り組んでいる基礎研究を発展させ、早期に臨床に還元できるよう精進する」との声が寄せられた。今年は七月末までクラウドファンディングを行っている。
 伊東さんは「なぜ若手が研究を途中で断念するのか、根本的な原因も知ってほしい」と訴える。その要因の一つは十分な研究資金を得るのが難しいことだ。「国の競争的研究費は研究期間が二〜三年が一般的。長期的に腰を据えて研究をする余裕がない」。採択率も三割以下で、複数に応募する必要があり、煩雑な応募書類を書き続ける労力は膨大だ。だが、資金を獲得できなければ実験補助員らの人件費も払えず、研究が続けられない。
 任期制など雇用期間に定めのある不安定な立場も敬遠されている。がん研究では、四十代後半にならなければ無期雇用の職に就くのは難しい。伊東さんも博士を取得後、五年任期制の助教に。任期は一度しか更新できず、今後は所属先を探さないといけない。「子育てをしながら数年ごとに職を失う不安は大きい」
 コロナ禍で留学を断念したり、物流が滞って実験機器が入手できなかったりと困難に直面する若手も多いという。伊東さんは「研究者の環境を改善するためにも、がん研究の意義や成果を分かりやすく発信していくことが必要だ」と話す。
<国の競争的研究費> 各省庁などの研究課題に応募し、採択されると資金が得られる仕組み。代表的な科研費(科学研究費助成事業)の予算は2001年度の1580億円から、21年度は2487億円に。一方、国から国立大に支給される人件費や研究費、教育費などの運営費交付金は年々減っている。

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