井伏鱒二、創作メモあった 14日まで 杉並の博物館初公開

2019年10月5日 16時00分

デパートの包装紙に貼られた荻窪付近の地図などが書かれた井伏鱒二の創作メモ=東京都杉並区で

 長年住み続けた荻窪のまちと人の移り変わりを描いた作家・井伏鱒二(一八九八~一九九三年)の「荻窪風土記」の創作メモを、杉並区立郷土博物館(同区大宮)が初公開している。同作の原稿は何度も推敲(すいこう)されているため創作メモは存在しないと考えられてきたが、「井伏の創作スタイルの見直しを迫る発見」と、同博物館学芸員の今田雄代(かつよ)さん(53)は話す。 (岩岡千景)
 創作メモは、百貨店の包装紙を貼り合わせた裏に、リポート用紙や広告ちらし、原稿用紙の裏紙などに書いた十二枚のメモが貼り付けられている。
 内容は手書きの地図が多く、頭に浮かんだままに書いたと思われる文や、荻窪界隈(かいわい)の旧井荻町(現在の同区清水一丁目)人口動態表、新聞切り抜きなどもある。二年前に遺族から同館へ寄贈され、研究していた。
 その一つは、公衆浴場や自転車店、電気店などを書き込んだ商店街の地図。井伏が家を建てる前に下宿していた「平野屋酒店」について書いた章の<即(すなわ)ち、武蔵野湯の右手は、中込という電気屋で>で始まる文と店の名や場所が一致する。
 広島県出身の井伏鱒二は一九一七年、早稲田大入学のため上京。その十年後に荻窪に家を構え、以来五十年にわたる暮らしを「荻窪風土記」につづった。道端の石地蔵やウナギの捕れた用水がなくなりホタルやガマガエルも消え…。時代とともに町が変わりゆくさまを執筆。井伏文学の総集編といわれる。
 雑誌連載の後に本になり、執筆開始は八十三歳。「晩年になり自分の生きていた場所の様子を残していきたい気持ちが強く、なるべくメモして忠実に書いていこうとしたのでは」と今田さんは話す。
 メモは十四日まで、準常設展「杉並文学館~井伏鱒二と阿佐ケ谷文士」で展示中。 

井伏鱒二

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