きょうは豆腐の日 地域見守る 都心の行商 「孤独死なくしたい」

2019年10月2日 16時00分

常連客と世間話をする菅谷さん(左)=いずれも東京都千代田区で

 10月2日は、語呂にちなんで「豆腐の日」。東京都心でも、昔ながらのラッパを吹いて豆腐を売り歩く行商は少なくない。その一人で行商歴15年の菅谷晃子さん(38)=千葉県松戸市=は、あるお年寄りの死をきっかけに、この仕事を続ける目的が増えた。「孤独死をなくしたい」。地域の見守りも兼ねてリヤカーを引く。 (加藤健太)
 「パー、プー」。高級住宅が立ち並ぶ麹町周辺(千代田区)に不釣り合いな甲高い音色が響く。業者から仕入れた濃厚な豆腐や湯葉、豆乳がクーラーボックスで冷えている。年配の常連客に商品を手渡すと、「体に気を付けてね」と笑顔で見送った。
 木曜は麹町周辺、金曜は西麻布(港区)、月、火、土曜は綾瀬(足立区)と、毎週同じ時間に決まったルートをゆっくり歩く。「玄関先で待ってくれている人がいるから」と、雨の日も傘を差して街に繰り出し、行商で生計を立てている。
 二十三歳の時、行商の求人に引かれて、都内の豆腐業者で働き始めた。幼少期にいじめを受けた経験から話し掛けるのは苦手。でも、ラッパを吹いていると街の人が話し掛けてくれるから気楽だった。自分のペースで歩けるのも、のんびり屋の性格に合っていた。
 始めた当初は、数多く売って稼ぐことに執着した。ハウツー本を読み、うたい文句を考え、一日に十万円を売り上げた。だが、身の上話を打ち明けてくれる常連客に親近感が湧き、「売るのは二の次。お客さんと関係を深めたい」と思うようになった。三年前の秋、その思いを強くする出来事が起きた。
 いつも通っている足立区のアパート前で、白いはずのカーテンが黒っぽく見えた。目を凝らすと「ハエが群がっていた」。すぐに警察に連絡した。一人暮らしのおばあちゃんが亡くなっていたと、後に知った。
 客ではなかったが、腰を曲げて手押し車を押す姿をよく見かけていた。「あいさつを交わすくらいの仲だったら、もっと早く異変に気付いてあげられただろうに」と後悔が募った。
 それ以来、「いつも擦れ違うお年寄りとは関係を築こう」と思い立ち、世間話を大切にするようになった。一人に費やす時間が増えた分、売り上げはピーク時の半分以下に減った。それでも菅谷さんは「一週間誰とも話す機会がないおじいちゃんが私を待ってくれていた。毎週顔を合わせる強みを生かして孤独なお年寄りに寄り添っていきたい」と話した。

ラッパを吹いて豆腐を売り歩く菅谷晃子さん

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