<スポーツ探偵>カツカレー×千葉茂さん せっかちなスターの一言から生まれた

2022年8月1日 07時14分

(右)千葉茂さん (中・上)千葉さん直筆の色紙「カツ・カレーは勝利の味がする」 (中・下)銀座スイス・庄子あけみさん (左)銀座スイスの「千葉さんのカツカレー」=1980円(税込み)

 暑い夏でも食欲をかき立てられる「カツカレー」。老若男女に愛されるこの人気メニューは、あるプロ野球選手のひと言がきっかけで誕生したといったら、驚くだろうか。今から七十四年前、巨人・千葉茂さんがつくった伝説を追って、東京都中央区の「銀座スイス」を取材した。

◆一緒に出してくれ

 カツカレーの起源を巡っては浅草・河金などの説もあるが、カレーライスの上にカツを載せる現在の形で提供したのはこの店が最初。「はい。うちの常連で巨人の選手だった千葉茂さんが先代に作らせたと聞いています」。三代目店主・庄子あけみさんが話す。
 「銀座スイス」といえば、一九四七(昭和二十二)年創業の老舗西洋料理店。なぜ、ここでカツカレーが生まれたのか−。調査を進めると、誕生の瞬間がわかってきた。
 四八年のある日、千葉さんがふらりと来店した。店の近くに高級紳士服店「銀座テーラー」があり、巨人の選手がそこでユニホームを作っていたことから、よく立ち寄ったそうだ。カウンター席から厨房(ちゅうぼう)を見ていた千葉さんは突然、「おい、そのカレーにカツレツを一緒にして出してくれ!」と注文を付けたという。
 「みんな驚いたそうですよ。カレーとカツを一緒に食べる発想はなかったので。自分のアイデアが気に入った千葉さんはその後、青田昇さんや別所毅彦さんら巨人の選手を連れてきて、『こりゃ、うまいな!』と広まっていったそうです」と庄子さんが証言する。

◆巨人の名セカンド

 千葉さんはプロ野球の初期に活躍した巨人の名二塁手。三八年から五六年まで在籍し、ファイトあふれるプレーから「猛牛」のニックネームで呼ばれた。残念ながら二〇〇二年に亡くなったが、長嶋茂雄さんの前に背番号「3」を付けたこと、後に近鉄の監督を務めたことでも知られる。
 それにしても、カレーとカツを一緒に頼むとは、どんな人だったのか。実際に対戦した元中日投手の杉下茂さん(96)に聞いた。
 「せっかちな人だったよ。風呂もせっけんを付けたままザブンと入っちゃうような人。別々に食べるのが面倒だったんだろうね」
 一方、銀座スイス社長・藤岡康雄さんは「スター選手の千葉さんだからできたのかも。二品分の料金がかかるので当時のお値段は百八十円。今だと八千円くらいしたはず」。もし、千葉さんがせっかちでなかったら。もし、高給取りのプロ野球選手でなかったら。この料理は生まれていなかったかもしれない。

◆世界各国でヒット

 そんなカツカレーは今、国内外の食卓を席巻している。カレー店の国内最大手「CoCo壱番屋」を運営する壱番屋によると、昨年度の総売り上げは約八百五十三億円。中でもカツは人気が高く、カツのベスト3((1)ロースカツ(2)チキンカツ(3)手仕込とんかつ)で提供数全体の26%をも占める。
 注目すべきは海外での人気ぶり。同社は米国、英国など、世界十二カ国・地域で二百一店舗を展開中(六月現在)だが、「全ての国・地域でカツを載せたメニューが一位です」(壱番屋広報)。寿司(すし)、ラーメンに並ぶ新たな日本食として耳目を集めている。
 千葉さんが亡くなって二十年。日本から海を渡った大谷翔平選手が投打でファンを魅了するように、カツ&カレーの“二刀流”も世界のトレンドになっているとは知らなかった。「先日、フランスから来られたお客さまが『ここがカツカレー発祥の地ですか』って…。千葉さんもさぞ喜んでいることでしょう」と庄子さんが故人を懐かしんだ。
文・谷野哲郎/写真・隈崎稔樹
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