生粋の「相鉄っ子」が語る悲願の上京物語 創立から1世紀、ついに都心乗り入れ【動画あり】

2019年10月1日 11時45分

直通運転開始日までのカウントダウンボードを示す担当者の井上剛志さん=9月4日、横浜市の相鉄本社で

 東京まで長い道のりだった。創立から1世紀余り。関東の大手私鉄で唯一、都心に乗り入れていなかった相模鉄道(本社・横浜市)が11月30日、JRとの直通運転により悲願だった都心につながる。3年後には東急との直通運転も予定。近くて遠かった神奈川と東京の距離がぐっと近づく。(松尾博史)

輸送人数で他社と格差開く

 「輸送人数で他社との格差が生じているのは、都心に行く場合に乗り換えが必要だからではないか。そんな危機感がありました」。準備を担当する交通戦略担当課長の井上剛志さん(38)は強調した。広報担当者も少し遠慮がちに話す。「相鉄の知名度は、都内ではあまり高くないでしょう。神奈川県内でも沿線以外では『県警の運転免許センターに行くときに、近くの二俣川駅まで乗る電車』というイメージが強いかも」

横浜駅前の懸垂幕。「横浜の真ん中と、東京の真ん中をつなぐ」の文面に期待の高さが表れる

 日本民営鉄道協会によると、大手私鉄十六社の輸送人数は、景気低迷や少子高齢化により一九九〇年代前半から減少していたが、景気回復や外国人観光客の増加によって持ち直し、二〇一七年度には過去最高の約百四億人に達した。

沿線の環境を変えたい一心で

 ところが相鉄の輸送人数のピークは一九九五年度で二十年余り更新していない。沿線に大規模な観光地や行楽施設がある鉄道会社と違い、通勤・通学の利用者に頼っている相鉄は都心につながっていないのが悩みだった。
 二俣川駅近くで生まれ育った生粋の「相鉄っ子」の井上さんだが、友人たちは進学や就職を機に沿線から離れていった。車掌や運転士を経て、直通運転に関する業務を希望したのは、沿線の環境を変えたい一心からだった。

車両の「顔」に魔よけの獅子口

 東京への直通運転に向けて力を入れたのが車両の「おめかし」。新たに導入した「12000系」の外観は、港町・横浜の海を思わせる濃紺色。正面のデザインは能面の一つ「獅子口」をイメージし、霊獣の獅子による「魔よけ」の意味を込めた。JRの車両とはデザインが大きく異なり、さぞ目立つだろう。井上さんは「広告塔として都心を走ることで相鉄を知ってもらい、沿線の人口や利用者の増加につなげたい」と意気込む。

試運転でJR新宿駅に乗り入れた相鉄の12000系車両=9月3日、東京都新宿区で

 二俣川駅近くで日本茶の販売店を営む渡辺敏生さん(61)は「都内から横浜国立大に通学しやすくなるだろう。行き来の選択肢が増えて便利になり、街が活性化すれば」と乗り入れを歓迎する。

先祖からの土地譲ってくれた方々に感謝

 二二年度下期に東急線との直通運転も始まる予定で、羽沢横浜国大駅から東急日吉駅への新線(約十キロ)の整備も進んでいる。今年春に「関東の私鉄格差」(河出書房新社)を出版した鉄道ライターの小佐野カゲトシさん(41)は予想する。「東急線は東京メトロ南北線や都営三田線に乗り入れている。東急への直通運転が始まれば、相鉄の駅から都心の大手町駅や永田町駅まで座って行けるようになるかもしれない。そのインパクトは大きいだろう」
 井上さんは浮足立つことなく冷静に話す。「新線の整備には税金が使われ、先祖からの土地を譲ってくださった方々がいる。感謝の気持ちを大事にしなくてはならない」
 いざ東京へ。相鉄の「上京物語」は始まったばかりだ。

新宿まで一直線

◆相模鉄道とJRの直通運転 相鉄は横浜-海老名駅の本線(24.6キロ)と二俣川-湘南台駅のいずみ野線(11.3キロ)で旅客営業している。直通運転は海老名-新宿駅で行われ、西谷駅から新設の連絡線(約2.7キロ)に入り、新駅「羽沢横浜国大駅」を経てJRの貨物線、横須賀線、埼京線を通る。1日46往復、一部の列車は川越や大宮などが始発・終着駅になる。2000年に旧運輸省の運輸政策審議会が神奈川東部方面線の整備について答申し、06年に事業化が始まった。費用は1114億円。鉄道建設・運輸施設整備支援機構が連絡線を整備し、相鉄は施設使用料を払う。
(2019年9月30日朝刊「TOKYO発」面に掲載)

関連キーワード


おすすめ情報