「15分だけ」でもOK、気楽に働けるカフェ ひきこもりや不登校の若者に働きやすい場所を提供

2022年8月3日 11時46分
 ひきこもりや不登校の若者に働きやすい場を提供しようと、最短で「15分」勤務しただけで賃金を支払う珍しいカフェが今春、愛知県春日井市にオープンした。内閣府の調査では、ひきこもりの人たちは就労関連の理由でつまずくことが多い。15分という短さによって、心理的なハードルを下げる効果が期待できるとして、専門家も注目している。(長田真由美)

後片付けをする男性(右)と小栗加奈さん=愛知県春日井市のワンぽてぃとで

 JR勝川駅から徒歩約10分。住宅街の一角にあるカフェ「ワンぽてぃと」で今夏、スタッフの男性(23)が黙々と皿を洗っていた。勤務表はない。好きな時に来て、最短15分から働ける上、15分単位で増やせる。賃金は愛知県の最低賃金(時給955円)に基づき、15分につき239円だ。
 男性は高校卒業後、正社員として電子部品工場で働いた。だが、先輩社員に仕事を教えてもらえず精神的につらくなり、8カ月で退職。業種を変えてアルバイトもしたが、人間関係に疲れて辞めた。その後、1〜2年ほど家に閉じこもっていたという。
 「『来てもいい。来なくてもいい』という店の考え方が、気持ちを楽にしてくれた」。就労支援事業所からカフェの紹介を受け、開業当初から週1回、2〜3時間ずつ通い始めた。接客は苦手なため、厨房ちゅうぼうで調理や皿洗いを担当。徐々に勤務を増やし、今は多い時で週3日、4〜5時間ずつ働いている。
 カフェは、この男性を含む3人を「15分雇用」の枠で採用し、タイムカードで労働時間を管理する。他に通常のパート従業員が3人おり、うち1人と経営者の小栗加奈さん(46)の計2人が常駐して、15分雇用の3人が自由に働ける仕組みを整えている。
 さらに不登校の中学生4人を「職場体験」として受け入れている。同じく15分単位で体験でき、時間に応じて図書券と店の割引券を渡す。友達との人間関係に悩み、不登校になった中学3年の女子生徒(15)は5月から月2〜3日、4〜5時間ずつ接客に挑戦。「だんだん声をかけられても平気になった。お客さんの『ありがとう』の言葉がうれしい」と話す。
 主婦だった小栗さんが店を開くきっかけは、中学3年の三女(14)の不登校。小学5年の頃から学校を休むようになった。「学校に行かなくてはと思うけど行けない」とうつむく三女を見て、「社会に出るのが難しい若者が、社会に出る前の練習の場をつくろう」と思い立った。クラウドファンディングで集めた約85万円で開業し、三女も職場体験をしている。
 小栗さんは「もっと高い時給がいい、と別の職場に移ってもらうのも大歓迎。誰かのために働くことが生きがいにつながってくれれば」と願う。問い合わせはカフェのメール=tomarigi.kasugai@gmail.com=へ。

 ひきこもり支援に詳しい愛知教育大の川北稔准教授の話 わずか15分から雇う試みは新しい。ひきこもりの人が職業訓練を経て就職しても、フルタイムが条件だと道のりが長いと感じるだろう。もし途中で辞めると「また失敗した」と悩む恐れもある。15分単位なら、あまり緊張せずに働ける上、「働くことができた」という自信がつきやすいのではないか。

◆「就労」につまずき…ひきこもり54万人超

 内閣府の2016年の調査によると、半年以上自宅に閉じこもっている15〜39歳のひきこもりの人は推計54万1000人。きっかけは「職場になじめなかった」「就職活動がうまくいかなかった」など、就労に関するつまずきが目立つ。
 厚生労働省の委託を受けた相談拠点「地域若者サポートステーション」は全国177カ所にあり、働く意欲を引き出すことから、職場定着までを支援している。最近は、ハローワークも就労に悩む若者の専用窓口を設置している。
 福井県越前市の場合、インターネット上の仮想空間「メタバース」を使った、ひきこもりの人の支援を検討中だ。「アバター」と呼ぶ自分の分身キャラクターを登場させ、自由に動かせる。外出が難しく、他人と接するのが苦手でも社会とつながれる可能性がある。担当者は「当事者が行政に何を求めているか本音を聞き、どんな就労支援ができるか検討したい」と話す。

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