小田急線刺傷事件発生から1年 その後も相次ぐ無差別事件 背景に「人間関係の格差」、疎外感

2022年8月5日 06時00分
小田急線の急行車両。乗客が刺傷された事件の後、駅員らによる巡回が強化されている=3日、東京都新宿区で

小田急線の急行車両。乗客が刺傷された事件の後、駅員らによる巡回が強化されている=3日、東京都新宿区で

 東京都世田谷区を走行中の小田急線で乗客10人が刃物で切り付けられるなどした事件は、6日で発生から1年となる。事件後、京王線の乗客刺傷や大阪・北新地のビル放火殺人など無差別に人々を襲う事件が相次いだ。犯行動機について識者は「世の中への不平不満や疎外感が根底にある」と指摘。事件を教訓とし、孤立を生まない社会づくりを進める必要性を説く。(榊原大騎)
 7月下旬、金曜の午後8時すぎ。小田急線の登戸駅から都心部に向かう快速急行の座席はほとんどが埋まっていた。大半は若者で、多くが下を向いてスマートフォンの画面をのぞき込んでいる。イヤホンを着けている人も目立つ。次の駅に停車するまでの8分間、同じような状況が続いた。

◆「自分はくそみたいな人生」

 昨年の8月6日午後8時半ごろ、金曜の電車内は悲鳴に包まれた。無職の対馬悠介被告(37)=殺人未遂罪などで起訴=が登戸駅から快速急行に乗り、前方の車両に移動しながら次々と乗客を刃物で切り付けた。
 サラダ油をまいて火を付けようとした後、緊急停車中に乗客が開けたドアから逃走。翌日、逮捕された。胸や背中など7カ所を刺された女子大生が重傷となり、9人が軽傷を負った。公判はまだ始まっていない。
 対馬被告は逮捕後、警視庁の調べに「大量に人を殺すため、途中で乗客が降りられない快速急行を選んだ。誰でもよかった」と供述。「勝ち組の女や幸せそうなカップルを見ると殺したくなるようになった」「自分はくそみたいな人生。不幸は周りのせい」とも述べたという。

◆京王線、北新地、東大周辺では受験生が…

 今も通学で小田急線を使う大学3年の女性(20)は「自分が乗っていたらと思うとぞっとする。個人的な事情で関係ない人を狙うというのは理解できない」と憤る。身を守るための対策として「すぐに動けるよう、できるだけドア付近にいるようにしている」という。
 その後も京王線や北新地の事件のほか、東京大周辺で受験生らが襲われるなど各地で人々が無差別に狙われた。
 立正大の小宮信夫教授(犯罪社会学)は、「共通点は世の中への不平不満。対馬被告が事件を起こしたことで、自分もやってもいいんだと考える人が出てきたのではないか」とし、一連の事件のきっかけになったと推察する。

◆疎外感抱く人、どう救い上げるか

 筑波大の土井隆義教授(犯罪社会学)は、事件の背景には「人間関係の格差」があると考える。
 現代社会では「リア充」などの言葉に代表されるように、人間関係への期待値が高まっているとした上で、「人間関係を築くにはお金が必要なこともある。経済的余裕がないことが理由で人間関係が築けなくなった人は、生きづらさを感じ、疎外感を抱きがちだ」と指摘。「そうした人たちをどう救い上げていくか、社会全体で考えていかなければいけない」と強調した。

◆巡回強化、監視カメラ…対策進む

 小田急電鉄は事件後、駅員や警備員による駅構内の巡回を強化している。同社によると、停車駅の間隔が長い快速急行では事務職員らも車両に乗り、不審な動きをする人物がいないか見回っている。
 同様の事件を想定した警察との合同訓練や講習会も10回ほど重ねてきた。訓練では駅員や乗務員らが、混乱する乗客役らをホームに避難誘導。講習会では刺股や盾の使い方を警察官から学んできた。
 車両内の監視カメラの整備も進んでいる。事件前の昨年3月は5%だった通勤車両での設置率は、今年7月には16%になった。
 同社の広報担当者が強調するのが、乗客が非常時に乗務員と通話できる赤色のボタン「非常通報装置」の存在。各車両に備わっているといい、「異常や危険を感じたら、ちゅうちょなくボタンを押して通報してほしい」と呼び掛けている。

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