コロナ感染 100回電話、入院できず10時間後に死亡…都内80代男性 病床使用率50%台なのになぜ…

2022年8月5日 06時00分
 新型コロナウイルスの第7波が拡大する中、東京都内では感染で容体が悪化しても救急搬送が極めて困難な状況となっている。7月末には高齢のがん患者の搬送先が見つからず、感染判明から10時間後に自宅で亡くなった。都が公表する病床使用率は50%台と数字上は空きがあるものの、訪問診療の医師は「なぜ入院できないのか」と憤りの声を上げる。(小川慎一)

搬送先の病院が見つからず、感染判明から10時間後に自宅で死亡した男性に手を合わせる田代和馬院長(手前)と男性の妻=東京都品川区で(ひなた在宅クリニック山王提供)

◆搬送困難「昨夏(第5波)以上」

 7月28日午後9時前、品川区内のマンション一室で、救急隊員がスマートフォンで電話をかけていた。感染し容体が悪化した男性(83)の搬送先を探し、既に2時間を超えていた。駆けつけた区内の「ひなた在宅クリニック山王」の田代和馬院長が「100件ぐらいかけたか」と聞くと、隊員は「100件以上かもしれない」。「昨年の夏(第5波)と同じか」との院長の問いに、隊員は「それ以上ですね」と言った。
 消化器系のがんを患う男性の感染が判明したのは、この日午後6時ごろ。田代院長が往診すると、発熱し意識がもうろうとした状態だった。妻も検査で陽性と分かり、田代院長が救急車の要請を勧めた。

末期がんを患っていた83歳の男性。コロナに感染し、血液中の酸素飽和度は84%と酸素吸入が必要なレベルになっていたが、救急搬送先が見つからず、翌朝死亡した(ひなた在宅クリニック山王提供)

◆血液中の酸素飽和度は84%に低下

 搬送先が見つからず救急隊員が帰った後、男性の血中酸素濃度は84%まで下がり、ひどい息苦しさを訴えた。対応を引き継いだ田代院長は、在宅でできることとして酸素吸入を続けた。だが、翌朝9時前に訪れると、男性は亡くなっていた。妻が午前4時ごろ、息をしていないことを確認したという。感染判明からわずか10時間後のことだった。
 都は2日、救急搬送できなかった80代の男性の死亡を発表。詳細を明らかにしなかったが、品川区の男性とみられる。第7波で入院先が見つからぬまま死亡した例は初めてだった。

◆「入院して治療すれば助かったかも」

 この男性は末期がんだったが感染前の体調は良く、趣味のボウリングや水彩画を描くことを楽しみにしていた。田代院長は「入院して治療すれば助かったかもしれない。病床使用率は50%台なのに、なぜ入れないのか。見放された結果の死だ」と怒りをぶつけた。
 自宅療養中の感染者約60人を診る新宿区の「新宿ヒロクリニック」のはなぶさ裕雄院長によると、7月下旬に白血病の女性(82)が感染して容体が悪化し、搬送先が見つかるまで午後4時~翌朝10時まで18時間かかった。その間、救急隊が酸素吸入を続け、100件以上の病院に問い合わせたという。
 英院長は「これまでも病床使用率が50%を超えると、まず緊急入院できないというのが現場での感覚。夜間に入院先を見つけるのはほぼ不可能だ」と語る。

◆医療従事者の就労制限が背景に

 東京都内で新型コロナの患者用の病床使用率が50%台なのに、入院先が見つからない例が相次ぐ背景には、受け入れ側の医師、看護師の感染や濃厚接触による就労制限の急増がある。
 都医師会の猪口正孝副会長は「うちの病院も職員の10%が出勤できない」と説明。「それぞれの医療機関が受け入れ態勢の限界に達している。ベッドは空いており、有効に使いたいが、一気に(患者が)なだれ込んで受け止められない。本当にはがゆい状態」という。
 4日の都モニタリング会議などによると、新規感染者数の1~1.5%に当たる300~400人が日々、入退院する。その際、手続きや感染対策、検査、消毒などで通常の患者より多くの人手や時間を要し、医療機関の負担も増大している。
 さらに、入院調整を担う都の担当者は「コロナが重症でなくても既往症が重いと、受け入れ先が限られる」と指摘。関係者によると、亡くなった男性の場合、末期がんを理由に数病院が受け入れに難色を示したという。加えて、夜間は都の入院調整本部の電話回線が69から10に減り、調整を翌朝に持ち越す例が少なくない。(加藤健太)

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