人間国宝内定 喜びの声 中村梅玉 鶴澤津賀寿

2022年8月5日 07時36分
 伝統芸能の世界で長く精進を続け、芸を高度に体現してきた第一人者五人が新たに重要無形文化財の保持者(人間国宝)に内定、秋にも認定される。このうち歌舞伎立役の中村梅玉(ばいぎょく)(76)、義太夫節三味線の鶴澤津賀寿(つるざわつがじゅ)(64)の二人に喜びの声を聞いた。

◆歌舞伎立役・中村梅玉 芸の向上へ より精進したい

 六月の東京・歌舞伎座公演中に体調を崩して、三日間休演した。「年をとったのかと落ち込んでいた時に(内定の)知らせがあり、一遍に立ち直りました」とちゃめっ気のあるあいさつで場を和ませながら、「歌舞伎の本道をこつこつ歩み続けてきた結果だと思います。ますます芸の向上に精進いたす所存です」と顔を引き締めた。
 六代目中村歌右衛門の養子となり、九歳で初舞台。名女形で人間国宝でもあった父から、古典をしっかり勉強し、品のある役者を目指すよう教わった。それこそが「歌舞伎の本道」だ、と。「舞台の苦労は当たり前。『今日はだめでも明日があるさ』と、流れに乗ってここまで来ました」と六十年超の芸道を振り返る。
 時代物、世話物、舞踊など芸域は広く、前髪のついた元服前の男性や二枚目の役に定評がある。「御存(ごぞんじ) 鈴ケ森」の白井権八、「元禄忠臣蔵 御浜御殿綱豊卿(おはまごてんつなとよきょう)」の徳川綱豊=写真、(c)松竹=など当たり役は多いが、「一番大事にしているのは『勧進帳』『義経千本桜』の源義経」。地味で目立たず“しどころのない”役だが、「風格」「たたずまい」を大切にしている。
 舞台は若々しい。心掛けていることは「気を若く持つこと」。そのために今を知ることは欠かさず、今は「YOASOBI」の音楽にハマっている。サザンオールスターズの桑田佳祐と意気投合したこともあり、「桑田さんも頑張っている」と自身を鼓舞する。
 何度も役をつとめるうちに発見がある。「二月の『御浜御殿』(歌舞伎座)も楽しくつとめられました。新たな発見に生きがいを感じます」と話す。 (山岸利行)

◆義太夫節三味線・鶴澤津賀寿 これからは太夫を育てる番

 内定の知らせに、驚きで口をついた言葉が「(受けていいか)師匠に聞きますので待ってください」。人間国宝で文化功労者の師匠竹本駒之助(86)は言った。「すぐに受けなさい!!」。六月に音楽文化の発展に貢献した個人・団体を顕彰する「第52回ENEOS音楽賞」(邦楽部門)で女流義太夫では駒之助に次ぐ受賞も決まったばかりで、「師匠を二度も泣かせてしまった」と喜びをかみしめる。
 三味線の伴奏で太夫が叙情的に語る義太夫節は、文楽や歌舞伎などで用いられる。歌舞伎の劇評家を目指して早稲田大卒業後、評を書くための素養として義太夫節を習い始めた中で「評論家は向かない」と思うように。二十六歳で駒之助に入門、楽器の経験があり三味線方に回った。女流義太夫は太夫も三味線も女性が演じる。「歌舞伎の舞台背景も文楽の人形もないが、太夫の情熱あふれる語りに寄り添う三味線の音色に魅了されて」のめり込んだ。
 三味線は「太夫が語りやすいよういざなうもり立て役」で「目立っちゃいけない」と厳しく教えられた。「主役の太夫を支える方が性に合っている」と三味線弾きの道を究める。修練の中でもハマったのがディズニーランド。「エリア全部がステージ。舞台人として勉強になります」
 太夫の駒之助とのコンビは二十八年=写真、(c)山之上雅信。「隣にいるだけで学べる、無言の教えです。これからは私が太夫を育てる番」と自らに言い聞かせる。義太夫協会所属の女性正会員は約四十人。人間国宝を前面に会員増に励むのかと思いきや、「無理をせず、後輩たちにつないでいければ」と至ってマイペースだ。 (神野栄子)

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