都教委が安倍氏葬儀に半旗依頼 「政治的中立に反する行為」の背景にあるものとは…

2022年8月6日 06時00分

東京都庁

 首都・東京の教育委員会が、安倍晋三元首相の葬儀の日に半旗掲揚を求めていたことが判明した。教育基本法の「政治的中立」に反する恐れを専門家は指摘するが、少なくとも全国7自治体の教委も同様の要請を行っていた。「弔意は強制していない」と口をそろえる様子から浮かぶのは、子どもや教師の権利に無頓着な教育行政の姿だ。こんな状態で、世論を二分する「国葬」を行って大丈夫なのか。(特別報道部・中山岳、中沢佳子)

◆「教員、生徒たちへの刷り込み心配」

 先月12日。ある都立高校の教員が出勤すると、学校内にあるポールの中ほどの高さまで揚げられた日の丸が風にはためいていた。安倍氏の葬儀に合わせた半旗掲揚。教員は「特別な人として国を挙げてまつりあげることが、教員や生徒たちに刷り込まれるのではないか」と危ぶむ。
 別の高校の教員は「学校で半旗を掲揚するのは、教員らにとって弔意を強いられることになる。この危うさに校長や都教委はなぜ気づかないのか」と問題視する。
 教育現場に戸惑いや疑問の声が上がった半旗掲揚を、都はなぜ依頼したのか。
 依頼文書を作った都総務局総務課の担当者は、東京五輪・パラリンピックを挙げて「安倍首相には都政にご尽力いただいたこともあり、各局にお願いした」などと説明。文書を各学校に転送した都教委の担当者は「こちらが依頼文書を作ったわけではなく、都総務局の事務連絡を淡々と転送しただけ。実際に揚げるかどうかは校長の判断で、強制する意図はない」と述べる。

◆日の丸・君が代問題と同根

 都は「弔意の強制」を否定するものの、「『日の丸・君が代』不当処分撤回を求める被処分者の会」の近藤徹事務局長は異なる見方を示す。「都教委から来た連絡を多くの校長はそのまま実行する。なぜなら校長といえども、都教委の業績評価の対象だからだ。半旗掲揚をしないと自らの評価に響くと恐れ、実施した人もいるのではないか」
 東京では2003年、当時の石原慎太郎都政下で都教委が、卒業式などで日の丸に向かって起立し、君が代を斉唱することに従わない場合は懲戒処分する「10・23通達」を出した。これまで処分された教職員が次々に訴訟を起こし、延べ66人の処分が取り消されている。訴訟は今も続き、昨年3月に処分の取り消しを求める集団訴訟が起きている。
 都教委による締め付けは、教育現場に浸透してきたと近藤氏は言う。「都教委から言われたことを校長がそのまま垂れ流すのは、もはや当たり前になりつつある。今回の半旗掲揚での弔意の強制は、日の丸・君が代問題での『敬意の強制』と共通の問題をはらんでいる。今後執り行われるという国葬では、学校は半旗掲揚だけでなく黙とうなどを求められる可能性もある」と危ぐする。
 藤田英典・東京大名誉教授(教育社会学)は「安倍氏が銃撃を受けて亡くなったことで、教員の中には情緒的な理由で個人的な弔意を示そうという人もいるだろう。だが学校で半旗を掲揚するのは行き過ぎで、弔意の強制との声が出るのももっともだ」と話す。
 藤田氏は、安倍氏の政治的な実績についてはいろいろな意見や評価があり、旧統一教会との関係も取り沙汰されていると指摘。「教育現場での半旗掲揚は政治的中立性を損なう面がある。葬儀に合わせて半旗を掲揚することは、子どもや生徒への影響も考えられ、適切ではなかった」と述べる。
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