逗子市で2020年に「重大事態」と認定 いじめ防止基本方針「未策定が対応の遅れに」 被害児童の保護者が批判

2022年8月6日 07時15分

被害児童が「友だちに気持ちを伝える方法を知りたい」と何度も読んだ本と大事にしているぬいぐるみ

 神奈川県逗子市の市立小学校で二〇二〇年、児童がいじめられて転校を余儀なくされ、市教育委員会がいじめ防止対策推進法に基づく「重大事態」と認定していたことが分かった。第三者委員会による調査報告書がまとまったのは今年五月。いじめがあった当時、市は同法に規定された「いじめ防止基本方針」を策定しておらず、被害児童の保護者は基本方針が未策定だったことが対応の遅れにつながったと批判している。(石原真樹)
 保護者によると、被害児童は二〇年四月に市立小に転入。新型コロナウイルスによる休校を経て、六月に登校が始まった。九月、下校中に同級生にランドセルを振り回されて転ぶ事案があり、担任は同日中に被害児童宅を訪問。数日後に学校で被害児童と加害児童を対面させ、謝罪の場を設けた。しかし、悪口を言われたり机を倒されたりするなどの事案が続き、十一月に「もう限界」と学校に行けなくなった。保護者は同月、児童の転校を決め、いじめの重大事態として調査するよう市教委に求めた。
 市教委は十二月末に重大事態と認定。児童への聞き取りを行わないまま、学校への調査に基づき、翌二一年三月に報告書を保護者に示した。保護者は「学校側だけの調査で作られ、事実関係に誤りもあり、全容解明に程遠い」として第三者委員会による再調査を求めた。
 同市は当時、県内で唯一いじめ防止基本方針を策定しておらず、市教委は、方針がないと再調査できないと判断。同年十月に基本方針を策定した上で、再調査を開始したのは十二月、報告書(答申)がまとまったのは今年五月だった。
 答申は、学校の対応は不十分で、被害児童や加害児童に適切な対応や指導が行われたとは言いがたいと指摘。教員らによる児童への聞き取りが不十分で、暴力や暴言に対し、「その場限りで場当たり的な指導」が繰り返され、加害児童への指導が表面的だったなどとした。被害側、加害側双方の保護者に第一報を入れるなどの報告や説明が欠けていたとも言及。市教委が基本方針がないと対応できないとしたことについて、「法的知識が不足している表れ」と批判し、方針が未策定だったことは「マイナスの影響を与えた」とした。
 保護者と被害児童は「同じことが起きてほしくない」と本紙の取材に応じた。児童は聞き取りがなかったことについて、「話すのはつらかった。でも、何が起きたのか、聞いてほしい気持ちも半分くらいあった」と明かした。
 市教委の担当者は取材に「いじめへの対応が不十分だった。申し訳なかった」と認め、「答申の指摘や提言を踏まえて再発防止に努めたい」と話した。被害児童の聞き取りは「タイミングが調整できなかった。本来は行うべきだった」、基本方針が未策定だったことは「怠慢と言われても仕方ない」と述べた。保護者の要望を受け、答申を近く公表する。

◆「作って終わらず浸透させて」

 いじめ防止基本方針は、いじめの防止や早期発見・対処のため、相談体制や重大事態発生時の調査指針、対策のための組織の設置などを定める。二〇一一年に大津市の中二男子がいじめを苦に自殺したことをきっかけに制定された「いじめ防止対策推進法」に基づき、国と学校は策定の義務、地方自治体は努力義務がある。二〇年度の文部科学省調査によると、全国で96・8%の自治体が策定済み。
 NPO法人「ストップいじめ!ナビ」の須永祐慈副代表は、いじめの重大事態は各地で起きているとして「自治体として地域の実情に合わせた細やかな基本方針を定める意義は大きい」と指摘する。ただ、策定されても担当者しか知らず、実際の対応に生かされないケースもあるとして「いじめで苦しむ子どもや保護者に寄り添った対応ができるよう、方針を作って終わりではなく、周知し浸透させる必要がある」と話す。

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