<土曜訪問>情報をうのみにする恐ろしさ そっと教える絵本が反響呼ぶ 林木林(はやし・きりん)さん(詩人・絵本作家)

2022年8月6日 12時45分
 真っ赤な背景にたけだけしいライオンのイラスト。そこに記された「考えない、行動しない、という罪」という文字。書店で見かけた『二番目の悪者』=写真(上)=の絵本らしからぬ文言に、思わず手に取った。
 物語の主人公は、王様になりたい金色のたてがみを持つライオン。心優しい銀のライオンをライバルとみるや、根も葉もない彼の悪いうわさを流す。うわさは口から口へ広まっていき…。庄野ナホコさんによる柔らかなタッチの絵と相まって、情報をうのみにして無責任に広める恐ろしさを、そっと伝えてくれる。どんな人が書いたんだろう?と、取材を申し込んだ。
 「読まれないと思っていたんですよ。説教めいたものは受け入れられないんじゃないかって」。文章を担当した詩人で絵本作家の林木林さんは、申し訳なさそうに話した。
 ところが、二〇一四年に出版されると、今の世情を問うような風刺の効いた内容は、学校でいじめや差別防止のために読まれたり、社内研修の教材として活用されたり。年齢を問わず、それぞれ置かれた環境に引き寄せて読まれているという。昨年、読み聞かせしやすいよう、一回り大きなサイズでも出版され、現在までに五万八千部が発行された。「多くの人にとって身近に自分のこととして引き寄せて考えることができる話なんだなと、びっくりした」
 空想にふけったり、ものを書いたりするのが好きな子どもだったという。「音楽の教科書に載っているリコーダーの練習曲に歌詞を付けたり、アニメの主題歌の替え歌を作って歌ったりするのが好きだった」。中学生の時、クラスメートから交換日記ならぬ詩の交換ノートに誘われた。五人ぐらいで順にノートに詩を書いて回覧していったが、結局、二、三巡で終わってしまった。が、「詩の楽しさに目覚めて」一人で詩のノートを作り、こっそり書いていった。
 「あるときふと、私には何も誇れるものがないなと思ったんですよね。何かの得意を持っている人がまぶしかった」。何をやっても長続きせず、誇れるものがない自分にコンプレックスを感じていたが、ほそぼそと続けていた詩の存在に気付いた。「自分にはこれしかないと思ったんです」
 仕事をしながら詩を投稿し、〇四年の「第四回詩のボクシング」全国大会で優勝した。大会で創作した六編の詩を受け、審査員の岡本敏子さん(当時、岡本太郎記念館館長)から、「あなたすごいわね。全部違うのに、それが全部あなたなのよね」と声を掛けられた。「いろんなものを書いて良いんだと、すごい励みになった」
 その後、詩集を出したいと出版社を訪ねたが、相手にされず、「それなら詩を絵本にするのはどうだろう」と思い付いた。何十社と話を持ち込んだところ、来社予約まで取り付けられたのは一社だけだったが、詩が気に入られ、〇七年に初めての絵本『ゆうひのおうち』を出した。
 絵本を作る上でも「なるべく美しい言葉、印象に残る言葉を残したいという気持ちが強い」。絵は一目見て誰が描いたか分かりやすいが、絵本の文章は難しい言葉は多用できず、文字数も限られてくるため、作家の個性を出すのは難しいという。それでも、個性のある文章を目指す。「むしろ絵に描けないことを言葉で書いてやるわいと思っているんですよ」と、ニヤリと笑う。
 林さんにとって詩とは何かを問うてみた。「あんまり考えたことがないですねえ。自分の中からくみ上がってきた清水のようなものですかね。こんなものがあったんだ〜みたいな」。皿を洗っている時、風呂に入っている時、買い物をしている時。予期しない時に、言葉が湧き出てくるという。それが新作のヒントになることも。岡本さんの言葉通り、回文やしりとりなど言葉遊びが楽しめる作品も数多く手掛けている。
 「言葉のいろんな決まり事から解き放たれるのが韻文の楽しさ。これからも言葉を大切にしたもの、詩的なものを書いていきたいし、日の当たらないものに光を当てたい」 (飯田樹与)

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