<つなぐ 戦後74年>負の遺産ツアー 平和のバトン 戦争史跡など大正大生が卒業研究

2019年8月30日 16時00分

戦争の史跡などを巡って学ぶ「ダークツーリズム」について話し合う大正大の川喜田尚教授(右)と学生たち=東京都豊島区の大正大で

 負の遺産から歴史の教訓を学ぶ「ダークツーリズム」が注目される中、アジア各地の戦争遺産や博物館を、各国の若者たちが一度に巡るモデルツアーを考案した学生たちがいる。大正大(東京都豊島区)表現学部の川喜田尚教授(メディア論)ゼミの4年生14人。ゼミ長の土屋千尋さん(21)は「国ごとにさまざまな歴史認識や価値観があることを若い世代が理解することで、平和のバトンをつなげていける」と話す。 (小倉貞俊)
 同ゼミは毎年、三年時に卒業研究テーマに取り組んでいる。土屋さんらは昨夏、合宿で広島市を訪問。原爆ドームや平和記念資料館などを回った際、「欧米人に比べアジア人の観光客が圧倒的に少ない」と気付いた。実際、統計でも年間に来日する外国人の八割以上がアジアからなのに対し、広島を訪れるアジア人は三割にとどまっており、「広島が避けられているのでは」と調べることにした。
 専門家や旅行会社への聞き取りで、例えば中国では「学校の授業で子供たちに原爆投下を教えていない」「加害国である日本人の被害を伝える施設には違和感があり、トラブルを防ぐため広島を通らないツアーを設定している」などの情報を得た。アジア各国にも、負の遺産を伝える施設が多くあることも知った。
 学生たちは「アジアの人に広島への関心を持ってもらうには、各国の視点からも戦争を見つめるべきだ」と考え、昨秋から今春にかけ、モデルツアーをまとめた。
 ツアー名は「20歳のダークツーリズム」。国籍を問わず学生を募集する。東京を出発し、韓国・ソウルでは日本統治時代に独立運動家を収監した西大門(ソデムン)刑務所歴史館など▽中国・北京では中国人民抗日戦争記念館など▽台湾・台北では慰安婦の歴史を伝える阿〓(アマ)の家 平和と女性人権館など▽フィリピンでは太平洋戦争の激戦地コレヒドール島の戦跡などを経て、広島の平和記念公園まで二週間の旅程としている。
 「それぞれの国が戦争をどう伝えているかを知り、参加者はショックを受けたり、疑問を持ったりすると思う」と土屋さん。「それでも国境を超えて多様な価値観に触れ、議論を交わすことで、平和を守ることの大切さを実感してほしい」
 費用は格安航空を使うなどして、食費を除き二十三万円と試算。実際にツアーを組む場合、主催者側がクラウドファンディングなどで費用を調達して参加者は無料とし、その代わりに公式の会員制交流サイト(SNS)で情報や感想を発信してもらう計画だ。研究内容は、学内のゼミ対抗研究発表会で最優秀賞になった。
 川喜田教授は「今回は卒業研究とはいえ、実現可能性の高いモデルツアーになった。今後、できれば旅行会社などに提案していきたい」と話した。
<ダークツーリズム> 戦争や公害など人類の負の歴史や、事件・事故など悲しみの記憶を巡る観光。1990年代に欧州で提唱された。日本では、東日本大震災後、文化人らが東京電力福島第一原発の一帯を観光地化する構想を提言したことで知られるようになった。
※〓は、女へんに麼

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