「住民の敵」復活の物語 ダイオキシン騒動 揺れた産廃会社モデル

2019年8月20日 16時00分

石坂産業の取り組みを参考にした演劇の稽古に励む劇団銅鑼の団員たち=東京都板橋区で

 嫌われる仕事-。そんな産業廃棄物処理業のイメージを覆し、国内外から年間三万人が見学に訪れる会社が、埼玉県三芳町にある。かつて住民から撤退を迫られ、廃業の危機から環境を一番に考える企業へと変貌した「石坂産業」だ。今夏、東京都板橋区の劇団銅鑼(どら)が、その復活の物語を参考にした演劇を披露する。プライドを捨てず偏見と闘い、信頼を勝ち取っていく姿を描き、働くことの意味を問い掛ける。 (浅野有紀)
 三芳町周辺は以前、「産廃銀座」と呼ばれるほど業者が集中していた。一九九九年、近隣産の野菜から高濃度のダイオキシンが検出されたとの報道があり、値段が暴落。後に誤報と判明したが、風評被害を受けた農家らは産廃業者に立ち退きを迫る反対運動を展開した。
 工場から上がる煙を標的に、「出て行け」と迫る住民たち。同業者が次々と撤退する中、創業者の父親から会社を引き継いだ石坂典子社長(47)は、住民の理解を得て「地域に愛される企業」に生まれ変わろうと、改革を推進した。

◆埼玉・三芳町や東京芸術劇場で上映

 焼却処分から分別によるごみ資源化への転換、屋内型プラントの建設、作業工程が見られる見学通路の設置。新たな施策を次々と打ち出し、当時六十五人いた社員の四割が反発して辞めた。それでも生き残りを懸けた改革を続けた。
 近隣住民の共感を特に得たのが、里山保全活動だった。会社の敷地周辺は何者かによる不法投棄のごみであふれていた。かつての里山を復活させようと、石坂社長をはじめ社員らがごみを拾うと、近隣住民も参加するように。今ではホタルが生息するまでになった。
 東京ドーム四個分の会社敷地には、体験型農場や地産地消のカフェを併設する「三富今昔村(さんとめこんじゃくむら)」を整備し、自然と共生するライフスタイルを提案している。こうして一度は「住民の敵」とまで言われた石坂産業は、国内外からさまざまな人々が環境学習に訪れる企業へと生まれ変わった。
 そんな経緯を報道で知り、感銘を受けたという劇団銅鑼が、同社を参考に「働くこと生きること」をテーマにした演劇「ENDLESS-挑戦!」を制作した。産廃業者の女性社長を主人公に、住民との対立や社員と社長のぶつかり合い、対話を重ねて理解し合う姿を描くストーリーだ。
 産廃業は、処理の過程で有害物質が発生して環境に影響するのではないかといった懸念が根強い。台本を担当した田口萌(もゆ)さんは「偏見から嫌われがちな職場で働く人の熱い思いに触れることで、働く意味とは何かを考えてもらえたらうれしい」と話している。
 初演は二十四日、石坂産業の地元・三芳町の町文化会館で行う。公演を支える実行委員会には、かつて反対運動に関わっていた住民も参加する。実行委のメンバーは、ごみを資源に変え、持続可能な社会を目指そうとする同社の理念に共感。公演を「住民がごみに対しての考え方を変えるきっかけにしていきたい」と意気込む。今月二十七日~九月一日には、東京都豊島区の東京芸術劇場シアターウエストで上演する。問い合わせは、劇団銅鑼=電03(3937)1101=へ。
<ダイオキシン問題> 1999年2月、テレビ朝日の報道番組「ニュースステーション」が埼玉県所沢市産の野菜から高濃度のダイオキシンが検出されたとの民間の調査結果を報道し、野菜の入荷拒否が相次いだ。その後、国の調査で基準値超はなかったと発表した。同年7月にはダイオキシンの排出基準を定めた対策法が成立した。地元住民が大規模な反対運動を展開するなど、産業廃棄物処理業者が集中していた所沢市周辺で207基あった大型焼却炉は1年で150基に減った。住民らがテレ朝を相手取った訴訟では、テレ朝が謝罪放送をするなどの内容で2004年に和解した。

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