<取材ファイル>甘い審査 子育て世代にツケ 企業主導型保育 閉鎖や定員割れも

2019年8月4日 02時00分

川崎容疑者の関与で企業主導型保育所ができる予定だった空き地=福岡市で

 内閣府の「企業主導型保育事業」の助成金がだまし取られた詐欺事件では、ずさんな審査態勢が不正の温床になっていることが浮き彫りになった。取材を進めると、事件とは別に複数の施設でも、突然の閉鎖や定員割れなどの問題を抱えていることが分かってきた。安倍政権が待機児童対策の切り札と位置付ける制度のほころびのつけが、子育て世代に回りかねない。 (小野沢健太、山田雄之)
 「うちの園はなくなってしまうんでしょうか。フルタイムで働いているので、家から近いこの保育所に運良く入れて、本当に助かっているんです。ぜひ存続してほしいのですが…」
 七月の平日の夕方、福岡市の企業主導型保育所を訪ねると一歳の長男を迎えに来た二十代女性が不安げな表情を浮かべていた。保育所整備を巡り助成金約二億円をだまし取ったとして、東京地検特捜部に詐欺容疑で逮捕されたコンサルタント会社社長川崎大資(だいし)容疑者(51)が関わる施設だ。
 「保育園落ちた日本死ね」。インターネットの匿名ブログの書き込みが大きな話題となり、待機児童問題が注目される中の二〇一六年四月、制度は始まった。
 保育士が認可保育所の半数でよいなど運営基準は緩いが、助成金は認可施設並み。企業などから申請が殺到し、これまでに三千八百以上の施設が助成を受けた。制度開始から四年間に付いた予算は、約五千五百億円に上る。
 だが、助成決定を受けながら既に事業を中止したのは、少なくとも二百五十二施設。内閣府の委託を受けて助成審査を担う公益財団法人「児童育成協会」は、内閣府のルールにのっとって審査しているが、内閣府の担当者は「書類審査が中心で、見通しが甘い業者の申請も通してしまっている」とする。
 神奈川県の清掃会社は一八年に保育所を開設したが、保育士が十分に確保できず一カ月で閉園。通っていた子のうち二人は新たな施設が見つからなかった。
 清掃会社幹部は「女性が働きやすい職場にしたくて始めたが、予想と違っていた。損害も出たし、もう思い出したくない」と話す。
 札幌市のインターネット関連会社は一七年、二千万円の助成金を受け取ったが、保育所の整備をコンサル会社任せにしていたところ、工事が滞っていることが発覚。期限までに整備が間に合わず、断念した。同社幹部は「お子さんを預かる事業なのに、軽く考えていた」と振り返る。
 大阪市は市内の保育所の空き状況を公表している。二つの企業主導型保育所が十人以上の定員割れになっていたが、いずれも電話取材に「応じられない」と答えた。
 先日、東京都内の企業型保育所の前には、子どもを迎えに来た保護者らの列ができていた。一歳半の長女を迎えに来た会社員の男性(32)は「四、五園に断られた後、やっと入れたんです。事件で制度が変わるんでしょうか。親側の都合を考えずに見直しをするのだけはやめてほしい」と表情を曇らせた。

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