<東村山新聞>うどん文化 武蔵野台地が育んだ伝統の味守り続ける

2020年5月11日 02時00分

生地を包丁で切る神山マスさん=東村山市で

 東京の多摩地域から埼玉県に広がる武蔵野台地の一帯で、古くから「武蔵野うどん」が親しまれてきた。水にさらした手打ちうどんを、温かいだし汁につけて食べるつけ汁うどん。口に運ぶと、うどんの強いこしとだしの優しい味や香りが感じられ、思わず笑みがこぼれる。東村山市には武蔵野うどんを味わえる手打ちうどん店が点在し、家庭の伝統の味を守り続けている。
 「この辺りは、今は住宅が立ち並んでいるけれど、私が子どものころは一面の麦畑だったんだよ」。久米川町で「ますや」を営む神山(こうやま)マスさん(89)は懐かしそうに話した。武蔵野台地は江戸時代に新田開発されたが、多量の水の確保が難しかったため水田はできず、小麦や大麦、おかぼの栽培が盛んになった。そこで、小麦粉でうどんを作る食文化が生まれたという。
 農家に生まれた神山さんは、子どものころから畑を手伝い、母や祖母からうどん作りを学んだ。「普段食べるのは鍋で煮たうどん。冠婚葬祭やお客さんが来たときに、つけ汁うどんを出したんだよ」
 一九六五年に畑の一角に店を構えた。しばらく後に、つけ汁に豚肉を入れた「肉汁うどん」の人気が出て、中心メニューになった。うどんの作り方や道具は当時のまま。こしを出すために生地を何度も踏み、麺棒で薄く延ばして包丁で切る。まきで沸かした釜の湯に入れ、透き通ってきたら一気に水にさらす。「大変そうに見えるかもしれないけれど、それほど力は必要ないんだよ」と笑った。
 廻田(めぐりた)町の「きくや」は創業四十年余り。「LLね」「こっちは3L」。開店と同時にうどんの量を注文する客の声が響き、すぐにうどんが出てくる。店主の五十嵐菊江さん(76)は「うちは速さとおいしさが売り」。季節や天候に合わせ、生地の水や塩の量を調整する。地元の六十~七十代の女性従業員たちが五十嵐さんを支える。その一人の関田正子さん(76)は「お客さんや店のみんなに囲まれているのが楽しい。あしたも仕事しなきゃと思うと励みになる」と話した。
 六四年に創業した野口町の「小島屋」を切り盛りするのは小島孝子さん(79)。大分市出身で結婚を機に東村山へ。義母から作り方を学び、経営を引き継いだ。糧(かて)と呼ばれるうどんに添えるゆでた野菜や、てんぷらの材料は畑で栽培している。新型コロナウイルスの影響で現在は営業を自粛しているが「終息したら、また頑張らなきゃね。楽しみにしてくれる人たちがいるから」と前を向いた。

◆北山公園 ハナショウブの名所

 東村山市の八国山緑地の麓に広がる北山公園は、ハナショウブの名所として知られる。初夏に約600種、8000株、10万本の花が咲き誇る。秋には曼珠沙華(まんじゅしゃげ)(ヒガンバナ)の花も楽しめる。
 面積は約2万9000平方メートル。1970年代に宅地開発の計画が持ち上がり、自然環境を守ろうと、市が土地を購入して整備した。82年に「東京新百景」の一つに選ばれた。
 毎年6月に「東村山菖蒲(しょうぶ)まつり」が開かれるが、今年は新型コロナの感染拡大防止のため中止となった。公園に出入りはできるが、市は来園者に密集を避けるなど感染防止策の徹底を呼び掛けている。
 10年以上にわたってハナショウブの世話をしている造園会社「光緑園」の井上雅保さん(57)は「人が集まりすぎて、一生懸命に育てた花を切らざるを得なくなってしまうのは悲しすぎるので、節度ある訪問をしてほしい」と話す。

◆東村山市

 人口約15万人。北部は埼玉県所沢市と接している。1964年に東村山町から東村山市になった。平安時代から鎌倉時代にかけて武蔵国で勢力を誇った武士団「武蔵七党」の一つ「村山党」が市名の由来とされる。3月に70歳で亡くなったタレント志村けんさんの出身地。東村山の名を全国に広めた志村さんの「東村山音頭」と、63年に地元の農協が中心となって作ったオリジナルの「東村山音頭」は市のホームページで聴くことができる。
 ★全国に13カ所ある国立ハンセン病療養所の一つで元患者が暮らす「多磨全生園」には国の隔離政策による差別や偏見の歴史などを伝える国立ハンセン病資料館がある。資料館は休館中。
 ★正福寺地蔵堂は1952年に国宝に指定された。都内の建造物で国宝となっているのは旧東宮御所(迎賓館赤坂離宮)の2カ所だけ。

◆編集後記

 取材で巡ったうどん店では、いずれも地元の味を守ろうとする女性たちの意気込みを感じた。令和の時代になってもまきを使い、釜で湯を沸かしていることにも驚かされた。
 市内のうどん店は、市商工会のホームページに掲載されている。新型コロナの影響で営業を自粛している店もあり、訪問する際は各店に確認を。
 武蔵野の原風景である雑木林や緑地が多いのも東村山の特徴で、市も保全に力を入れている。いずれゆっくり歩いてみたい。
 文と写真・服部展和
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