<首都残景>(12)町田・奈良ばい谷戸 荒れた里山 よみがえる

2020年5月17日 02時00分

住宅地近くの沸き立つ新緑に囲まれた谷戸全景をドローンから撮影。500メートル以上にわたり田や畑などが連なり、その先に丹沢山地と富士山の一部が見える。右下の建物は炭焼き小屋=町田市で

 春、生命が輝きだす。樹木は芽吹き、緑が日に日に濃くなる。鳥はさえずり、カエルが鳴く。町田市小野路町奈良ばい。一時荒廃した里山が、よみがえった。
 町田駅からバスで約三十分。バス通りから東奥に、奈良ばい谷戸が広がる。谷戸とは、湧水(ゆうすい)が水田に流れ込み、周辺に樹林が育ち、小動物が生息する谷状の空間。かつてこの谷戸を都市開発しようとしたが、計画が頓挫。土地は放置され、荒れ放題だった。「四、五十年放置されていたかな。しかし、土地に手を入れたら、半年ほどでよみがえったよ」。市民らでつくるNPO法人「まちだ結の里」の田極(たごく)公市理事長が話す。
 里山を再生しようと、市が協力する市民を募り、田極さんら地元農家の指導で活動を始めたのが二〇〇五年。鍬(くわ)や鎌などを使った伝統農法で土に手を入れた。水田近くの樹林では草を刈り、木を伐採し、日当たりを良くした。「水田を復元すると、眠っていた植物のいろいろな種が刺激を受けて発芽するんですよ」。水田や畑、樹林に昔ながらの景観がよみがえった。
 「結の里」が結成されたのは〇九年。参加した市民は当初十八人だったが、いまは六十五人が再生活動を続ける。「会員は増えています。農業が初めての人がほとんどで、週二日のペースで一年中作業をしています。休みは盆と正月くらいですよ」と会のメンバー。
 「結」には助け合いの意味がある。「農家は田植えなど忙しい時は、互いに助け合って作業をする。集団の方が仕事が早いという知恵だよ」と田極さん。結はこんな所にも生きている。水田や畑でとれた米やジャガイモなどの農作物が、近隣の学校に給食の食材として提供されている。メンバーは「地産地消ですよ」。助け合いの心遣いだ。
 ほかにもこんな知恵がある。刈り取ったイネのワラは、細かく切り、水田にまく。「ワラにある納豆菌などが悪い菌を抑える働きがあるんです」と田極さんは話す。
 手を入れている田畑は一万平方メートル、樹林地は五万七千平方メートル。ウメ、クリ、ハナモモなどの木も植え、整備した散策路は約三キロに及ぶ。四季折々に変化する自然の美しさ。見学に訪れる人の姿は少なくない。メンバーは「『谷戸が良くなった』という市民の反響が本当にうれしいですね」。
 荒廃した谷戸に手を入れて十五年。よみがえった里山の風景が、心に染みる。
 文・伊藤憲二/写真・戸上航一
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