我輩のカレーである 高円寺・古本居酒屋 「漱石風味」レトルトできた

2020年4月28日 02時00分

「漱石カレー」と、店にあふれるたくさんの書籍。本とカレーは相性抜群!?

 我が輩のカレーである-。明治の文豪、夏目漱石が一口食べれば、そうつぶやいたかもしれない。文学にちなんだ、こだわりのレトルトカレーを東京・高円寺の古本居酒屋「コクテイル書房」がつくった。新型コロナウイルスの影響で、自宅で過ごす時間が長くなっている中、店主たちは「カレーと本で、おうち時間が楽しくなれば」と話している。
 さらっとしたルーに、ごろごろした牛肉。小説「三四郎」に登場する洋食屋さんのような趣がある。
 これが「文学カレー漱石」。本が読みたくなるカレーがコンセプト。日本の近代文学の代表的な作家である漱石のように、スタンダードな味わいを目指した。
 具材にもこだわった。漱石が好きだった牛肉をふんだんに。漢方で胃腸に良いとされるクミンやシナモンを入れ、胃弱に悩まされた漱石の体と心を優しく包むようなスパイスの配合にした。
 好物だったイチゴジャムを隠し味に。人生のほろにがさを出すために、黒ビールも加えた。
 レシピの考案は同店で働く斉藤友秋さん(41)。京都の創作和食店で修業経験があり、「明治時代のカレーには豚肉や玉ねぎ、ニンジンを使っていなかった。そんな時代背景や漱石の好みを盛り込んだ」という。
 一緒に考えた店主の狩野(かりの)俊さん(48)は、「日本のカレーと近代文学は、似たような道筋をたどってきた」と解説する。
 カレーは明治時代に英国から日本に入ってきて、独自の文化を進化させてきた。日本の近代文学も明治から始まり、翻訳文学に影響を受けながら、独自の作品を生み出してきた。中でも漱石は、のちの東京大で英文学を学び、「坊っちゃん」など名作を次々と発表。日本の小説の礎を築いた。
 「カレーと本は、相性がいいんです。古本の町、神田神保町にもカレー屋さん多いでしょう。ラーメンだと、ちょっと違うんです」と狩野さん。
 もともと店でカレーを出していたが、文学にちなんだカレーにして、レトルト化しようと昨年の春ごろから考え始めた。
 一カ月ほど試行錯誤を繰り返し、味を決めた。大阪の食品会社に依頼してレトルト開発を進めたが、なかなか味を再現できない。思い切って、肉や野菜を増量し、発売ギリギリまで調整して納得の仕上がりになった。その分コストも上がったが、価格は六百円(税別)に抑えた。
 漱石の誕生日の二月九日に発売。書店など本や漱石に縁がある店で販売している。
 狩野さんは「これでもうけるというよりは、本や作家、店を知ってもらうきっかけにしたい」と話す。
 太宰治をテーマに第二弾も計画中。恋人に贈りたくなるようなホワイトカレーにピンクペッパーをまぶしたポップなレシピにするという。「レトルトカレーだけど、生活感のない味やパッケージにしたい」。太宰にちなみ、桜桃忌の六月十九日の発売を目指している。
 新型コロナの影響で、店は休業し、経営には大きな打撃を受けている。狩野さんは「積(つ)ん読(どく)になっていた本や、古典を読んだりすると、家にいる時間も楽しく過ごせるかもしれない。このカレーが、そのお供になればうれしい」と話す。
    ◇
 文学カレー漱石は、コクテイル書房の店舗(休業中)か、インターネットサイト「日本の古本屋」で通販している。「文学カレー」で検索を。五月十四~二十日には、スーパー「クイーンズ伊勢丹」でも販売する。
 文・三輪喜人/写真・佐藤哲也
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