<首都残景>(11)高輪消防署二本榎出張所 誕生90年 誇りの望楼

2020年4月19日 02時00分

現役の消防車に挟まれたニッサン180型消防ポンプ自動車。いまも消防隊員により磨き上げられる=港区の高輪消防署二本榎出張所で

 遠くに東京湾、レインボーブリッジも見渡せる。港区にある高輪消防署二本榎出張所。ここにある望楼、いわゆる火の見やぐらからの眺望が素晴らしい。
 鉄筋コンクリート三階建て。三階の上に望楼があるが、それほど高い建物ではない。しかし、ここは海抜二十五メートル。かつて江戸の町を一望できた高台の景勝地だった。いまの庁舎ができたのは一九三三年。当時はここが高輪消防署だった。「周囲に高い建物がなく、海から庁舎が見えたといいます」。署員がそう話す。
 クリーム色のタイル張りの外壁。玄関は御影石に木の扉ででき、中に入ると大理石などで造られた重厚な階段が二階、三階へ続く。緩やかなカーブ、窓から差し込む光。斬新なデザインはドイツ表現主義と呼ばれた。一階は受付と車庫、二階に事務室があり、三階はしゃれた円形の造りで講堂として使われた。
 三階の天井は八本の梁(はり)が中心から周囲に延び、十個の大きな窓はアーチ状。天井の中心にシャンデリア、入り口の壁には非常時にバックアップで点灯するアールヌーボー風のガス灯を置いた。「いまは自家発電があるのでガス灯は使っていませんが、窓などほかは建設当時のままです」
 車庫にも貴重なものがある。ニッサン180型消防ポンプ自動車で、四一年の製造。エンジンは車体前にあるクランク棒を回してかけた。二段はしごは木製、サイレンは手動式で助手席の隊長がハンドルを回して鳴らした。「日本で最初に造られた本格的な消防車。高輪消防署二本榎出張所の一台だけです」
 戦時中、空襲を警戒して外壁は墨で塗られた。ポンプ自動車は空襲の際に消火活動で働いた。幸い庁舎は空襲を免れ、東日本大震災では外壁にひびが入った程度で済んだ。ポンプ自動車は六四年まで活躍し、現役を退いた。
 「外壁はさすがに老朽化したのでここ二年ほどできれいにしましたが、建物自体は本当に丈夫です」。庁舎はいま、一般の見学を受け付けている。一日に三、四人の見学があるという。「建物を見に工学部の学生も来ますね」
 庁舎が誕生して九十年近く。長い間使用してきたポンプ自動車のワックスがけはいまも月に一回行い、建物の維持管理にも気を使うという。「先輩たちが働いてきた所。ここは、私たちの誇りなんです」  
 文・伊藤憲二/写真・戸田泰雅
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