<泉麻人の気まぐれ電鉄 東京近郊>(1)荒川・足立 新旧鉄道の旅

2020年3月30日 02時00分
 泉麻人さんが、なかむらるみさんと電車で東京近郊をぶらつく散歩エッセー。新連載です。

◆三ノ輪橋→熊野前:都電荒川線 熊野前→舎人公園:日暮里・舎人ライナー

 長らくバスの旅をお届けしてきたが、今回から“鉄道”を主体に東京とその近郊を巡ってみたい。とはいえ、行程の途中に路線バスを使うこともあるはずだから、バスマニアの方も御愛読よろしくお願いします。
 まず都電荒川線に乗ってみよう。東方の始点・三ノ輪橋から出発する。写真会館の古いビル1階の一角がトンネルのようになっていて、くぐるとその向こうに都電が止まっている。
 都電線路端の横路地からジョイフル三ノ輪の商店街に入る。アーケードの下にぽつぽつ古い商店が残っているが、とりわけ目にとまるのは路地の角に建つソバ屋の砂場。小さな弁天様の脇から三ノ輪橋のホームに入り、電車に乗った。ビルが林立する町屋駅前を過ぎて、尾久の町域に入った熊野前で降車する。
 熊野前とは熊野神社の前、という意味だったが、本体の神社はもはやない。が、神社参道の旧道に続く<はっぴいもーる熊野前>の商店街は古い。ここは80年代の中頃、ビートたけしの番組で盛んに宣伝されて全国に名が知れわたった。商店街を歩いていくと、その番組で中継基地のように使われていた「熊まねき堂」があって、当時話題になった“たけし顔のマネキ猫”が保存されていた。
 この旧道は都電通りを横断して、北方の隅田川近くまで伸びている。そちらへ進んでいくと、商店が途切れた住宅街の一角に洋館仕立てのレストランがある。「レストラン 山惣」という店、上高地あたりの高原にある昔のロッジ風ホテルのような、実にシャレた建物なのだ。僕は煮込みハンバーグをいただいた。ランチ時の店内はあっという間に満席になって、とくに隣の大テーブルで、近所の中小企業らしき会社の人々が社長を筆頭に若い新入社員を歓迎する食事会、のような催しをやっているのが、いかにも地元に根づいたレストラン、という光景だった。
 この熊野前で中継している日暮里・舎人(とねり)ライナーに乗り換える。隅田川の尾久橋、荒川の扇大橋を渡ると足立区に入る。西新井大師西という、一瞬“回文”を思わせる駅で東方を眺めると、西新井大師・總持寺本堂の三角の大屋根が家並みの奥に垣間見える。舎人公園はまさに公園の真っただ中に駅が置かれている。町散歩が続いたので、この緑地のなかを歩いてみよう。
 さまざまな樹木が植えこまれ、原っぱが広がる緑地の中心にじゃぶじゃぶ池という大きな池があって、何種かのカモ、サギそれとバンという黒いからだに鮮やかな赤と黄のクチバシが印象的な鳥がいる。陸にあがってきたカモの中に、お互いのクチバシを近づけて見つめ合うラブラブカップル風のカモがいた。
 舎人公園から終点の見沼代(みぬまだい)親水公園まで2駅なのだが、舎人の町なかを散歩しながら行くことにした。公園を出て北西方の入谷側の住宅地の中を歩いていくと、先の舎人公園よりはずっと小さな児童公園に“ドカン”を模した円筒型の遊具が設置されていた。
 東京五輪前後の東京は、道路工事や下水道工事に使うドカンが所々の空き地に置かれていて、マンガのカットにもよく描かれていた。あのドカンが安全なレプリカ遊具として公園に置かれるとは、なんだか時代が一巡したという気がする。
 やがて、水路の脇に遊歩道を設(しつら)えた見沼代親水公園にぶつかった。その名は上流の大宮東部の見沼に由来する。
 ところで日暮里・舎人ライナーの高架線、見沼代親水公園のすぐ先でスパッと断ち切られたように終わっている。以前バス旅で訪ねた川口の安行の方まで延ばす構想もあるのだろうか。
 <所要時間・運賃>三ノ輪橋-熊野前=12分・170円/熊野前-舎人公園=11分・290円
<いずみ・あさと> 1956年生まれ。コラムニスト。著書に「1964 前の東京オリンピックのころを回想してみた。」など
<なかむら・るみ> 1980年生まれ。イラストレーター。著書に「おじさん図鑑」「おじさん追跡日記」など
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