<ひと ゆめ みらい>リヤカーが出会い招く シフォンケーキ行商人・久保田哲さん(48)=青梅市

2020年4月27日 02時00分

リヤカーでシフォンケーキを販売する久保田哲さん=青梅市で

 「『ちゃんちき堂のリヤカーに出会うと、いいことがある』なんてうわさが流れているみたいですよ」。青梅市内を中心に、手作りのシフォンケーキをリヤカーで販売している久保田哲さん(48)は、そう言って笑顔を見せた。
 カラン、コロンと鳴るカウベルの音が目印。「チキチキ5(ファイブ)」と名付けたリヤカーには、会社名の「ちゃんちき堂」と「シフォンケーキ」の文字はあるものの、掛け声は発しない。行商のルートは秘密で、出会うには運が必要だ。
 「ケーキ屋かどうか分かんないでしょ」「元気な声を出しなさいよ」。行商を始めた九年前、擦れ違う人からそんな声を掛けられた。だが、わくわくする気持ちを味わってもらう演出は、次第に地元に受け入れられていった。
 札幌市に生まれ、北海道江別市で育った。大学卒業後、立川市内の企業に勤め、結婚を機に青梅市に転居したが、うつ病を発症して休職。療養中、義母の平良幸子さん(68)が初めて焼いてくれたシフォンケーキのおいしさに驚いた。「しっとりとしていて、生クリームを付けずに食べられるなんて」。この体験が転機となり、起業につながった。
 菓子作りの経験はなく、試行錯誤を重ねた。スーパーで購入した卵で作ってもうまくいかず、地元の「かわなべ鶏卵農場」の卵を使うことで納得できる味と食感にたどり着いた。二〇一〇年、自宅に専門店を構えて販売を開始。翌年から、うつ病のリハビリを兼ねた運動にもなると、リヤカーを引き始めた。
 妻かおりさん(44)と二人で作るシフォンケーキは、卵以外の材料にもこだわった。小麦粉は故郷の江別市産を使用。行商で出会った青梅の農家が栽培するイチゴなども取り入れた。「リヤカーを引いているとたくさんの人と出会い、物語が生まれる。会話の中で、その物語も一緒に届けられたら」と願う。
 行商の一方で、地元のまちづくりにも力を入れている。起業後にリヤカーを引き始めたJR青梅駅周辺の商店街が年々衰退するのを感じ、「にぎわいを取り戻そう」と考えた。駅の近くにレンタルカフェスペース「cafeころん」や多目的スペース「青梅シネマ」を開設し、さまざまなイベントを企画してきた。「今度は、映画館がない青梅で定期的に映画を鑑賞できる場所を設けたい。それが地元の人たちへの恩返しにつながれば」 (服部展和)
<ちゃんちき堂> 新型コロナウイルス感染防止のため、現在はマスクを着用し、消毒用アルコールを使いながらリヤカーを引いている。シフォンケーキは専門店「ひみつ工場」(青梅市塩船63の8)やホームページ(http://www.chanchikido.jp/)の通販サイト、cafeころん(同市本町117の12)で購入できる。通販サイトでは地元の飲食店の応援チケットも販売中。問い合わせは、ちゃんちき堂=電080(5491)4400=へ。

関連キーワード

PR情報

東京の新着

記事一覧