<新型コロナ>習近平政権、はりや漢方薬「有効」 国策で推進、科学的評価は難しく

2020年4月24日 11時28分

北京の中医学診療所で3月13日、漢方薬を調合する薬剤師=AP

 中国政府は、新型コロナウイルス感染症への治療法として、はり治療や漢方薬などを用いた中国伝統の中医学の有効性を盛んに訴えている。背景には、伝統文化を礼賛して愛国心の発揚につなげようとする習近平(しゅうきんぺい)政権の方針がある。しかし国策として中医学を後押しすることにより、治療方法が科学的な評価を離れ、政治的な思惑の影響を受ける危険性も指摘されている。 (北京・中沢穣)

◆「特効薬」の漢方 治療に推奨

 「『清肺排毒湯』は新型ウイルスの特効薬だと考えている。国内外の研究者がほかの治療方法と比較研究することを歓迎する」。北京中医薬大学の王偉(おうい)副校長は十七日、国務院での記者会見で言い切った。 「清肺排毒湯」は麻黄(まおう)や炙甘草(しゃかんぞう)などを二十種類以上調合した漢方薬で、中国国家衛生健康委員会などが新型ウイルスの治療に推奨している。王氏は「90%以上の患者で炎症抑制などの効果があった」と強調した。 同委員会は一月下旬に新型ウイルスの治療法として中医学を取り入れるように通知を出し、最初に流行した湖北省に中医学の専門家約五千人を送り込んだ。国外展開にも力を入れ、イタリアやカンボジアなどに派遣した医療チームには中医学の専門家も含まれる。

◆欧米メディアは批判、国内からも警鐘

 中国では中医学の推進は批判が許されない国是といえる。習国家主席は昨年十月に「中華文化の貴重な宝だ」と祭りあげ、コロナ禍でも「中医学と西洋医学の融合」を訴えている。 しかし「陰と陽」など独特の概念を使う中医学は科学的な評価が難しく、欧米メディアはおおむね批判的だ。世界保健機関(WHO)は、新型ウイルスをめぐり「伝統的な治療法」への注意を呼び掛けていたが、三月上旬にウェブサイトからこの記載がなくなった。中国政府が圧力をかけたとの見方が広がっている。 国内にも否定的な見方がある。浙江大学医学院の肖永紅(しょうえいこう)教授は三月、英医学誌ランセットへの寄稿で中医学の効果には明確な証拠がないとし、「効果が明らかでない薬の投与は患者に有害となる恐れがある」と警鐘を鳴らす。香港紙サウスチャイナ・モーニングポストは専門家の話として、西洋医学の医師が中医学の専門家と意見が対立した場合、「国策に逆らって中医学を否定できるだろうか」と疑問を投げかける。

◆武漢で治療「効果は明白」 中医学の劉医師に聞く

SNSを介したインタビューに答える劉力紅医師

 広西中医薬大学の元教授で、中医学の専門家である劉力紅(りゅうりきこう)医師は2月下旬~3月下旬、ボランティアとして湖北省武漢市を訪れ、感染者らの治療に加わった。SNSを介した本紙の取材に「治療効果があったことは明白だ」と話した。 ―武漢に行った理由は。 懐疑的なものも含めて中医学にはさまざまな意見がある。今回のコロナ禍は中医学の医師としての40年以上の経験でも初めてであり、私自身も中医学でどこまでできるか知りたかった。 ―具体的な治療法は。 はり治療と漢方薬だ。はりは効果が非常に大きくて早い。胸の苦しさが改善または全快し、呼吸困難にも効果が得られた。ワクチンや特効薬がないため、(西洋医学で)治療ができないまま1カ月も入院していた患者もいたが、はりを打ってからすぐに改善した。 ―西洋医学との関係は。 中医学と西洋医学の間には多くの誤解がある。西洋医学の医師が中医学を見下すのは理解できるが、実際の治療効果で反論したい。武漢では西洋医学の医師と良い関係をつくろうと心掛けた。両者は互いに補い合える関係を築くべきだ。 ―新型ウイルスによる感染症の特徴は。 中医学で「両感」と呼ぶ特徴がある。普通の感染症は最初に身体の「表」にセキなどの症状が出るが、新型ウイルスは表面的に症状がなくても、いきなり身体の内部に(影響が)到達する。だから診断が難しく、感染が広がりやすい。(2020年4月22日夕刊に掲載)

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