アラカン軍 新たな脅威 ミャンマーで民族感情あおり急伸

2020年4月20日 16時00分

ミャンマー西部ラカイン州で2019年1月、国軍とアラカン軍の戦闘が起き、僧院で避難生活をする子どもたち

 ミャンマー西部ラカイン州で迫害を受けたイスラム教徒少数民族ロヒンギャの大規模な国外避難が起きた後、仏教徒少数民族ラカインの武装勢力「アラカン軍」(AA)の脅威が拡大している。AAと国軍の衝突で、多数の死者や国内避難民が発生。ミャンマー政府はAAをテロ組織に指定して圧力を強めているが、紛争の泥沼化を危惧する声もある。 (バンコク支局・北川成史、写真も)
 地元メディアによると、今月十三日にラカイン州で市民八人、七日にも同州近くのチン州で市民七人が、AAと国軍の戦闘に巻き込まれて死亡した。後者は国軍の空爆によるとみられる。両州の一部でインターネットが遮断されているほか、AAを取材した報道関係者が訴追されるなど、人権に関わる問題が続発している。
 AAは二〇〇九年ごろ、北部カチン州で、国軍と長年対立する少数民族カチンの武装勢力「カチン独立軍」の支援を得て結成された。かつて「アラカン王国」を築いた歴史を持つラカインの民族感情をあおり、自治拡大を掲げて、ラカイン州での拠点づくりを図る。

ラカイン州で2019年1月、住民が避難した僧院の近くで警戒する治安部隊員

 ラカインは人口約三百万人のラカイン州で最大勢力だ。以前は州人口のうち推定約百万人はロヒンギャだったが、一七年八月にロヒンギャの武装勢力と国軍などが衝突し、七十万人以上が隣国バングラデシュに避難した。ロヒンギャの存在感が低下した後、一八年十一月ごろから、AAと国軍の戦闘が激化し、約一万三千人の国内避難民を生んでいる。
 シンクタンク「ミャンマー和平・安全保障研究所」のミン・ゾー・ウー氏は「数十人の勢力だったAAは二、三年で急伸し、今やラカイン州に六千~七千の兵士を展開する」と分析。海外のラカインからの援助も大きな要因だと指摘する。
 AAは昨年、ミャンマーの独立記念日の一月四日に州内の警察施設を襲撃し、十三人を殺害。十二月にはアウン・サン・スー・チー国家顧問率いる与党・国民民主連盟(NLD)の関係者を拉致した。
 政治アナリストのモン・モン・ミャット氏は「AAは国軍を挑発し、より多くの過ちを起こさせようとしている」と危ぶむ。
 政府は先月二十三日、AAをテロ組織に指定。強硬姿勢は対立を深め、市民の犠牲を増す恐れをはらむ。
 政治アナリストのリチャード・ホーシー氏は「交渉や政治的解決の可能性が遠のく一方、軍事的決着の見通しもない」と戦闘の長期化を予想する。
 密集した国内避難民キャンプは新型コロナウイルスに脆弱(ぜいじゃく)で、在ミャンマーの欧米十八カ国・地域の大使は今月一日、AAなど武装勢力と国軍に、戦闘中止を求める共同声明を出した。
 だが、ホーシー氏は「ウイルスは(総じて)戦闘中止の動機になり得るが、ラカイン州ではその兆候はない」と厳しい見方を示す。
<アラカン王国> 現在のミャンマー西部ラカイン州の地域に、15世紀から300年以上続いたラカイン人の仏教王朝。18世紀後半、現在のミャンマー全体で多数を占めるビルマ人の王朝に滅ぼされた。AAはかつての繁栄がビルマ人らに奪われたという論法で、民族感情に訴えている。

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