18年に「新型コロナ」警鐘 世界の感染集計 米ジョンズ・ホプキンズ大

2020年4月8日 16時00分

ジョンズ・ホプキンズ大にある公衆衛生大学院の校舎=米メリーランド州ボルティモア市で(岩田仲弘撮影)

 「米ジョンズ・ホプキンズ大の集計によると」。新型コロナウイルスの感染拡大を刻々と伝える記事に連日登場する同大は、世界最大の公衆衛生プログラムを持つ名門私大だ。学部横断的な研究体制と巨額の資金で米国の医療の発展に貢献し、二〇一八年にはパンデミック(世界的大流行)を引き起こす新型ウイルスに警鐘を鳴らしていた。 (ワシントン・岩田仲弘)

■伝統

 世界が注目する集計表は今年一月下旬、同大システム科学・工学センターのローレン・ガードナー准教授が大学院生と二人で始めた。デニス・ワーツ研究担当副学長は「彼女が『公衆衛生に自分のスキルが役立つのでは』と始め、工学や公衆衛生の専門家が協力してプログラムを整備していった」と語る。
 感染症研究の中核は一九一六年に設立された、「ブルームバーグ公衆衛生大学院」だ。同大で政治学博士号を取得し、米国の医療政策に詳しい山岸敬和・南山大教授は「その源流は医学部(一八九三年設立)にある」と説明する。
 「当時先進的とされたドイツ型の医療教育制度を米国で初めて本格採用し、ロックフェラー財団が新たに公衆衛生の専門家を養成するプログラムを作ろうとした時、その実績から同大が選ばれた」(山岸氏)。同大学院が米誌大学ランキングの公衆衛生分野でトップの座を他校に譲ったことはない。
 ブルームバーグとは、富豪で今年の米大統領選の民主党候補者選びにも名乗りを上げたマイケル・ブルームバーグ元ニューヨーク市長を指す。同大電気工学科の卒業生で「約三十億ドル(約三千三百億円)を大学に寄付した」(山岸氏)功績から、その名が冠された。市長在任中も政策面で大学院と連携し、全米主要都市でいち早くレストランやバーの屋内禁煙に踏み切った。

ジョンズ・ホプキンズ大による新型コロナウイルスの集計表=5日、同大HPから

■提言

 世界で数千万人が死亡したスペイン風邪が猛威をふるった一九一八年から百年の節目となる二〇一八年には「パンデミック病原体の特徴」と題した報告書を公表し、新型ウイルスによる「世界を破局に導く生物学的危機」に対処する必要性を訴えた。
 特に新型コロナウイルスのように「潜伏期間中や症状が軽い段階で感染が拡大する特徴」に注目し、八項目にわたり具体的に勧告している。
 中でもインフルエンザと同タイプで突然変異を起こしやすい呼吸器系RNA(リボ核酸)ウイルスによる感染防止を最優先すべきだと強調。これまでの「歴史的な病原菌リスト」に基づかない抜本的な対策の見直しを求め、警戒すべき呼吸器系ウイルスとして、小さい子どもたちが感染しやすいパラインフルエンザやコロナウイルスを明示した。
 さらに、インフルエンザ以外のRNAウイルスに効く抗ウイルス薬やワクチンの開発を優先的に進めるべきだとも提言している。

■挑戦

 集計表の取り組みに見られるように、同大の強みは「チーム・サイエンスの文化」(ワーツ氏)にある。大学は現在、研究は緊急を要することから学部横断的に(1)テスト能力の向上(2)医療従事者の保護(3)医療機器の革新(4)臨床治療(5)ウイルス遺伝学-など九つのテーマで対策チームを結成し、研究を進めている。ワーツ氏は「患者の治療と感染の発見にまず重点を置いている。ワクチン開発も重要だがむしろ中長期的なテーマだ」と指摘する。
 大学の研究室は感染防止のため、一度は全て閉鎖されたが、ワーツ氏によるとコロナ対策に限り、必要最小限の陣容で学内での研究を再開した。
<ジョンズ・ホプキンズ大> 1876年、奴隷制度廃止に尽くした東部メリーランド州ボルティモアのクエーカー教徒ジョンズ・ホプキンズの遺産をもとに創立。日本では、国際連盟事務次長を務めた新渡戸稲造が留学していたことでも知られる。ノーベル賞を受賞した学生や教授など関係者は計29人で、国際連盟創設に寄与し平和賞を受賞した第28代大統領ウィルソンは同校で政治学と歴史学を学び、博士号を取得した。首都ワシントンの高等国際研究大学院(SAIS)は国際関係学で有名。

関連キーワード

PR情報

国際の新着

記事一覧