映画「パラサイト」半地下の町を歩く 都市の一角にひしめく90万人 映された格差

2020年3月30日 16時00分

映画「パラサイト」の一場面。半地下の窓からキム家の父が外を見つめる=配給会社提供

 韓国の貧富の差を生々しく描いた映画「パラサイト 半地下の家族」(ポン・ジュノ監督)が2月、史上初めて非英語圏の映画として、米アカデミー賞で作品賞など4部門に輝いた。貧困の象徴となった半地下のアパートが集まるソウル市内のロケ地を歩くと、高齢者の貧困や若者の就職難など、急速な経済成長に取り残された都市部の問題が垣間見える。 (ソウル・相坂穣)

◆半地下は朝鮮戦争の産物

 映画の原題は「寄生虫(キセンチュン)」。配達ピザの紙箱折りの内職などで生計を立てて半地下で住んでいたキム一家が経歴を偽り、会社経営で財をなした金持ちのパク一家が住む邸宅に浸透する姿を描く。

ソウル市麻浦区阿〓洞で、映画に登場した階段。傾斜地にれんが造りのアパートが密集している

 ロケ地となったソウル市麻浦(マポ)区阿〓洞(アヒョンドン)。れんが造りの低層アパートが傾斜地にへばりつくように並ぶ。超高層ビルが林立する中心部から二、三キロの距離だが別世界のようだ。半地下の部屋は撮影セットで解体されたが、街並みの多くは実在する。
 多くの住宅の土台部分に横幅の広い小さな窓が設けられている。いまだ休戦状態にある朝鮮戦争の産物とされる半地下の窓だ。一九七〇年代、朴正熙(パクチョンヒ)大統領の軍事政権が北朝鮮の急襲に備え、住宅新築時に防空壕(ごう)として地下室設置を義務化したのが始まり。八〇年代、首都一極集中が進んで住宅供給が逼迫(ひっぱく)し、格安の賃貸住宅として急増した。
 地元不動産業者によれば、半地下は3LDKのファミリー向けでも月二十万ウォン(一万八千円)台の家賃で借りられる物件がある。

◆「見せ物ではない」顔しかめる高齢者

 実際に内部を取材させてもらえないかと、歩き回った。ごみやたばこの吸い殻が目立つ地上から数段下がった玄関から現れる住民は高齢者が目立った。記者が話し掛けると「映画館に行く余裕なんかない。家は見せ物ではない」と顔をしかめる男性もいた。経済協力開発機構(OECD)の統計によると、韓国の高齢者の貧困率は加盟国で最悪レベルの45%前後で推移する。
 「この映画は貧富の格差に先立ち、人間に対する礼儀が失われた時、何が起こるかを描いた映画でもある」。ポン・ジュノ監督が二月に東京で開いた記者会見で話した言葉を思い出した。

撮影が行われた「テジスーパー」。見物に訪れた外国人らの姿も=いずれも相坂穣撮影

◆一晩中響く下水の音

 小さな食料品店「テジスーパー」を妻と経営する李廷植(イジョンシク)さん(78)が、店内に招いてくれた。半地下の浪人生の長男が友人から、金持ちの女子高校生の家庭教師のアルバイトを紹介される序盤のシーンが撮影された店だ。劇中で「ウリスーパー」となっていた看板以外は、そのままに見える。
 李さんも店を開いた三十歳のころ、近くの半地下に住んだといい、振り返ってくれた。昼でも日の光が入らずに薄暗く、夏は蒸し暑くかび臭いのは想像通り。「でも何よりも、下水の音が頭上から一晩中響いて寝付けないのがきつかった」

◆格差は若年層にも広がって

 今も韓国の人口の2%弱に当たる九十万人が半地下や地下に暮らすと推計され、若年層も増えている。一九年の十五~二十九歳の若年失業率は10・4%で日本の三倍近い問題がある。サムスンや現代(ヒュンダイ)などの十大財閥グループが国内総生産(GDP)の大半を占めるとされる大企業社会で、安定した就職先は限られる。
 作中で格差の比喩のようにキム一家が上り下りした階段。欧米出身の友人らと訪れた韓国中部・忠清北道(チュンチョンプクド)の男性会社員(38)が言った。「裕福な家に生まれ、家庭教師や海外留学のようにカネがかかる教育を受けた子が名門大学を出て、大企業に入る。貧富の格差は世代を超えてどんどん広がっているようだ」
※〓は山へんに見

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