「核兵器の祝福 禁止を」 ロシア正教会 改革案波紋

2020年3月23日 16時00分
 神の御名のもと、核兵器を祝福する習慣はやめよう-。ロシア正教会でそんな改革提案が出され、波紋が広がっている。仮に祝福の禁止が決まれば、「祖国防衛の要」と政府が宣伝してきた核兵器に「負」の印象がつくためだ。大量破壊兵器の意義を教会はどのようにとらえているのか。 (モスクワ・小柳悠志)
 提案は昨年夏、モスクワ総主教庁で一部の聖職者が「大量破壊兵器を儀式で『聖化』するのは、ロシア正教会の本来の伝統にない」と訴えたことに端を発する。提案の公表に合わせて市民から五月末まで意見を募っており、その後に採決する見通し。
 「聖化」は日本語にはない概念だが「おはらい/お清め」のような行為を指す。聖職者が聖水を振りまきながら、祖国防衛に従事する兵士と所持する武器の安全を願う。
 ロシア正教会は殺人を悪とみなす一方、「武器を手に祖国を守る行為は称賛に値する」と解釈してきた。このため聖職者は兵士と彼らが所持する武器や乗り物を祝福してきた。剣、銃、戦闘機、潜水艦などすべて聖化の対象だ。
 問題は二十世紀になって生まれた大量破壊兵器。核兵器や毒ガスや生物兵器は、大量かつ不特定の人の死をもたらす。核弾道ミサイルには兵士が乗っているわけでもない。改革派の聖職者は「大量破壊兵器を、旧来の武器と同列に扱って良いのか」と疑問を募らせてきた。
 ロシアは旧ソ連時代を含め、米国が広島・長崎に原爆投下したことを「人道に対する犯罪」とこれまでも非難。一方で「将来、外部からロシアへの核攻撃はありうる」とし、国防を理由に核軍備を急いできた経緯がある。
 「核兵器は素晴らしい発明。おかげで、旧ソ連時代を含めてロシアは存在し続けてこられたのだから」
 ロシア正教会で「長司祭」と呼ばれる立場の聖職者ドミトリー・スミルノフ氏(68)はこう述べ、核兵器の祝福は必要だと主張する。
 大量破壊兵器の祝福を禁ずる改革案は、教会内で採択されるのか。
 教会内の改革論者で知られる「補祭長」の聖職者アンドレイ・クラエフ氏(57)は「教会は政権との関係があるから、採択される可能性は低いだろう」と冷ややかに見る。
 ロシア正教会は表向き国家権力から独立しているが、実際は政権の意向に敏感だ。キリル総主教とプーチン大統領の関係も近く、プーチン氏が教会の行事に出席する様子はしばしばテレビで放送される。
 教会と軍の結び付きも深まっており、モスクワ郊外では軍のための教会も建設中だ。第二次世界大戦の戦勝七十五年の節目に、教会が核兵器に「異議」を公式見解として出すのは難しそうだ。
 国内でロシア正教会を信仰する国民は半数を超える。同じキリスト教で、ローマ教皇フランシスコは核廃絶に向けたメッセージを発信しているが、核兵器保有国の中でローマカトリックの信徒が多数を占める国はほとんどなく、軍縮への影響は限定的との見方もある。

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