<地球異変 迫り来る気候危機>(下)温暖化 味変わるワイン

2020年3月5日 02時00分

フランス西部ボルドー近郊で2月、温暖化が進む中でのブドウ栽培について話す責任者のアリックス・コンブさん

 灼熱(しゃくねつ)の太陽に焼かれ乾ききったブドウの葉が身もだえるようにねじれ、熱風に揺れる。世界的なワインの名産地、フランス西部ボルドー。最高気温が四〇度に達した二〇〇三年夏、ワイナリー(ワイン醸造所)で働くアリックス・コンブさん(52)はブドウ畑の光景に言葉を失った。
 実は膨らまず、下草も黄色く枯れ果てていた。「あんなひどい暑さは初めてだった。それが今や、たびたび起きるようになった」
 ボルドーの平均気温は、一九八〇年代の約一八~二〇度から、二〇一〇年代は約二〇~二三度に上昇。濃厚な果実味のボルドーワインにとって、温暖化はブドウの成熟を進める恵みと受け取られてきた。
 しかし、〇三年の熱波は、その考えを一変させた。収穫までに雨が降り大きな被害は免れたが、「誰もが危機感を抱いた」。生産者らでつくるボルドーワイン委員会(CIVB)のベルナール・ファルジュ代表(54)は振り返る。
 実が早くから過度に熟すようになり、収穫時期は三十年で三週間も早まった。熟成に重要な役割を果たすタンニンや風味が十分作られる前に、糖度ばかりが高まる傾向にある。
 糖分を分解し生成するアルコールは四度近く上がり、ボルドーらしい風味のバランスを取る酸味も弱まっている。「はっきりと味の変化が起きている」。ヨーロッパ最優秀ソムリエに輝いたこともあるフランク・トマさん(48)は指摘する。
 ブドウ栽培家たちは、相次いで自衛対策に乗り出した。剪定(せんてい)する葉の量を減らして実を守る日陰を作り、うねの間に植物の種をまいて地中の水分管理に力を入れる。かつては陽光をより吸収できるように高くしていた木の高さを、一転して抑えるようになった。
 温暖化は、主要品種のメルローが育たなくなるとの懸念も引き起こしている。仏国立農学研究所(現在の農業食品環境研究所)は〇七年、CIVBの依頼を受け、暑さに強い南欧原産などブドウ五十二品種の試験栽培を開始。温暖化に適応でき、より遅く熟す品種を探すのが狙いだ。
 ボルドーワインは、複数の品種を混ぜて味を調整するのが一般的だが、「将来、現在とはまったく異なる味のワインになる」と考える専門家もいる。
 ワイン大国のフランスでは、他の産地でも温暖化対策を模索する動きが広がる。北東部アルザス地方では、南部ローヌ地方で多い品種シラーを使ったワイン造りに挑戦。北部シャンパーニュ地方の大手テタンジェは一七年、冷涼な英国でブドウを作り、シャンパンではない発泡ワインの生産に着手した。
 ボルドーのブドウ畑が自然の脅威にさらされるのは初めてではない。十九世紀、害虫フィロキセラによる壊滅的な打撃を受け、一九五六年には霜害で大半が荒廃した。ファルジュさんは語る。「幾度も危機を乗り越えてきた。楽観的でも悲観的でもなく、華やかで果実味豊かなボルドーワインらしさを守るため、適応するしかない」
 (ボルドーで、竹田佳彦、写真も)

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