スエズ運河に中国の影 開通150周年 エジプト・経済特区で投資活発

2019年12月9日 16時00分

スエズ運河を通航する大型 タンカー

 アジアと欧州を結ぶエジプトのスエズ運河が、十一月で開通百五十周年を迎えた。運河周辺に経済特区を設置するなど、二度の政変を経て経済回復を目指すシシ政権にとって威信をかけた大規模開発プロジェクトが進む。そんな中で中国がシルクロード経済圏「一帯一路」構想に欠かせない要衝での投資を活発化させている。
 (エジプト北部イスマイリアで、奥田哲平、写真も)
 ■歴史の舞台
 「私たちは約束する。運河は、これまでと変わらず、勝利と発展、未来への懸け橋として永続する」。スエズ運河沿いの都市イスマイリアで、十一月十七日に開かれた百五十周年を祝う式典。ラビエ運河庁長官が運河の歴史を振り返り、そう力を込めた。
 全長百九十三キロのスエズ運河は、十年間の工事期間を経て一八六九年に完成。欧州諸国からアジアに向かうのにアフリカ大陸南端を回る必要がなくなり、航行距離が四割ほど短縮された。投入された四百五十万人の労働者のうち約十二万人が犠牲になるなど、国際海運の流れを変えた一大事業だった。
 その重要性は運河を歴史の舞台にした。西洋列強の支配に反対してアラブ民族主義を掲げたナセル大統領が一九五六年に国有化を宣言。イスラエルと争った中東戦争では一時航行不能になった。現在では年間約一万八千隻以上が通過し、約六十億ドル(六千六百億円)の通航料を得る主要な外貨収入源になった。

スエズ運河大学に開設され た「エジプト・中国応用技 術学院」

 ■経済回復の起爆剤
 二〇一一年の民主化運動「アラブの春」でムバラク旧政権が崩壊後に混乱に陥ったエジプト経済。一四年に就任した軍出身のシシ大統領が回復への起爆剤の一つとして打ち出したのが、スエズ運河の拡張と沿岸部を産業集積地とする開発計画だった。
 当初三年計画だった拡張事業は、大号令による突貫工事で一年足らずで完成。既存の運河と並行する三十五キロの新運河を開設し、北向きと南向きの船舶が同時に通航できる「複線化」で、南向きの通過時間は十八時間から十一時間に短縮された。二三年までに年間通航量は現在の二倍近い三万三千隻に増え、通航料も百三十二億ドルに達すると期待する。
 エジプトは一六年に発表した国家戦略「ビジョン2030」で経済成長率の目標として12%という野心的な数値を掲げた。目標を達成するには、運河周辺部への投資開発が欠かせない。経済特区に外国企業の進出を誘致する中で、名乗りを上げたのが中国だった。スエズ運河は一帯一路構想でインド洋から欧州に抜ける海路の戦略的な要衝だ。
 ■両国に利益
 運河南郊にある経済特区の一部は、中国の開発公社が運営。すでにガラス繊維大手「中国巨石」が進出し、ほかに鉄鋼企業なども検討を進める。
 イスマイリアにあるスエズ運河大学には昨年六月、中国の職業訓練学校と提携した学部が開校。情報通信技術や電子機械などのコースが設けられ、百三十人超が入学した。中国側が一千万ドル(十一億円)を寄付し、中国語教師も派遣された。
 エジプトは約一億人の人口のうち三分の二が三十歳未満の若者で、失業率は30%超に上る。豊富な若年層は経済成長への担い手の一方で、社会への不満をくすぶらせかねないリスクでもある。スエズ運河の開発の行方は、エジプトの安定を占う試金石でもある。
 アハラム政治戦略研究所(エジプト)のアフマド・カンディル研究員は「中国企業は製品をアフリカ各地や欧州に輸出しやすいようになり、エジプトの若者にはチャンスをもたらす。双方にとって共通利益となる」と指摘する。

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