日本からの弔電

2019年11月4日 02時00分
 文在寅(ムンジェイン)・韓国大統領の家は、事業に失敗した父に代わり、母が生活費を稼いでいた。卵や練炭をリヤカーに載せて近所に配るという、苦労の割に収入の少ない仕事だった。
 文氏も放課後や休みの日に手伝ったが、すすだらけになる練炭配達が恥ずかしく、いつも母親に不満をこぼしていたという。
 ある時、練炭を山積みにしたリヤカーの前を文氏が持ち、母が後ろで押さえながら坂道を下った。重さに耐えきれなくなった母が、思わず手を放してしまった。
 「そのため私は側溝に落ちてしまった。練炭が少し割れただけでけがはしなかったが、母はひどく心を痛めた」とある。自伝「運命」で、最も印象に残るシーンだ。
 もともと両親は朝鮮戦争の戦火を逃れ、韓国南部に定着。その後、文氏が生まれた。
 大学卒業後、文氏は故郷に戻るが、大統領に当選した後は、なかなか会えなくなる。
 その母が先月末、南部・釜山の病院で亡くなった。文氏は、「親不孝ばかりだった」と後悔まじりの文章を発表した。
 これを知った安倍晋三首相は、文氏に弔電を送ったという。これに先だって文氏も、台風被害のお見舞いメッセージを安倍首相に送っている。二人は政治の面では対立しているが、人を思う気持ちは同じだろう。
 こんな小さな配慮を積み重ねれば、二つの国はもう少し近くなるはずだ。(五味洋治)

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