東京パラへ相棒のチカラ

2020年5月13日 02時00分
 パラスポーツでは、障害のある選手を補助するパートナーの存在が欠かせない。選手と共にメダルが授与される競技もあるほど、果たす役割は大きい。東京パラリンピックの1年延期という想定外の事態に直面しても、変わらず選手に寄り添う相棒たちを紹介する。 (兼村優希)

◆ボッチャのアシスタント・峠田さん 選手の表情で戦況読む

 「地上のカーリング」とも称されるボッチャ。白い目標球へと持ち球を転がし、どこまで近づけるかを競う。アシスタントの峠田(たおだ)佑志郎さん(32)は選手の指示に従い、滑り台の要領でボールを転がす補助具「ランプ」の傾斜を調整し、てっぺんに球をセット。その球を選手がトンと押し出すと、目標球のそばにぴたりと止まった。
 峠田が支えるのは、リオデジャネイロ・パラリンピック代表で運動機能障害BC3クラスの高橋和樹(40)=フォーバル。障害が重く、自力で投球できないこのクラスは、アシスタントの助けがなければ成り立たない。選手と共にメダルが贈られるこの役目に、峠田さんは誇りを持っている。「自分も『選手』という認識。選手と同じ時間、ずっと一緒に練習していますから」
 試合中はコートに背を向けている。ルール上、振り返って展開を確認したり戦術を指示したりできないためだが、高橋の表情や持ち球を転がす強さから戦況を読み取る。それができるのも、高橋と試合を重ねてきたからこそ。「場数を踏んでいるので」と自信ありげに笑う。試合前の準備も大事な仕事。会場の湿度や補助具のゆがみなどを入念に確かめることが最も大切という。
 10年近く前、教員を務めていた特別支援学校で、生徒に誘われるままにアシスタントを始めた。「つまらなくなったらすぐ辞めようと思っていたのに、面白くて」。勤めながら高橋を含めてさまざまな選手と組んできたが、ボッチャに懸ける選手の姿を見るにつれて「片手間にはできない」という思いが募った。昨春に退職。東京パラ出場を目指す高橋の専属となり、生活介護も担う。
 東京パラは1年延期されたが、「メダルを獲得するという気持ちに一切の揺らぎはない」と言い切る。加齢で高橋の障害や体の状態が変化する可能性はあるものの「練習や戦術理解にかける時間が増やせ、自分や高橋さんにあった焦りが減らせる」と前向きに受け止めている。

ボッチャの高橋和樹(右)と練習を重ねるアシスタントの峠田佑志郎さん=東京都北区で

◆トライアスロンのハンドラー・大岩さん 信頼土台の早着替え

 スイム750メートル、バイク20キロ、ラン5キロの3種目を続けてこなすパラトライアスロン。次の種目に移行する「トランジション」と呼ばれる区間で、選手の着替えや車いすの乗り換えをサポートするのが「ハンドラー」だ。
 日本トライアスロン連合で広報を担当する大岩葵さん(26)は、東京パラリンピックで車いすマラソンとの2種目出場を目指す土田和歌子(45)=八千代工業=と約2年間、タッグを組む。移行もレースの一部。「タイムに直結するので、甘えや抜けがないように取り組みたい」と責任をかみしめる。
 スイムの後にウエットスーツを脱がせるのも、初めはけがが心配でおそるおそるだった。信頼関係を築き、土田の体のことを深く知る今は「追い剥ぎのように引っぱがします」。バイクからランにかけて、種類の違う車いすに乗り換える際も、足の固定やグローブを手渡す向きなど細かい部分で手順を突き詰め、効率を追い求めた。2回のトランジションエリアでの時間は計1分に満たない早業だ。
 それでも「試行錯誤の連続。自分の中ではまだ、成功だったと言えるトランジションはない」と満足したことはない。「東京パラに出て『成功だったね』と土田選手とお互いに言えたらいいな」

パラトライアスロンのトランジションで土田和歌子(左)のウエットスーツを脱がす大岩葵さん=韓国で(日本トライアスロン連合提供)

◆ブラインドサッカーのガイド・中川さん 変わる局面的確に伝達

 「3メートル」「45度」「シュート!」。視覚障害者らの5人制サッカー(ブラインドサッカー)では、相手ゴールに向かってドリブルで切り込む選手に、掛け声が飛ぶ。声の主は、ゴールとの位置関係を伝える「ガイド」。日本代表ではコーチの中川英治さん(45)が4年余り務める。相手ゴールの裏に控え、シュートを正しい方向に打たせる。得点できるかどうかを左右する重大な役割だ。「サッカーは局面が変わるスポーツ。選手に対し、いかに言葉で状況を的確に伝え、同じビジュアルを共有できるかが大事」と強調する。
 1999年から健常者のサッカーの指導者養成に関わってきたが、パラスポーツの現場は初めて。「ブラインドサッカーも競技の基本はサッカーと変わらない。問題があれば、同じように解決できる」と持論を語る。日本代表はパスを多用し、選手が目まぐるしくポジションを入れ替える独自の戦術を成熟させている。開催国枠で初めて出場する東京パラリンピックでメダル獲得を狙う。

ブラインドサッカーで相手ゴールの後ろから声を出す中川英治さん=東京都品川区で

◆他競技の主な補助者(いずれも視覚障害クラス)

▼競泳 タッパー
 プールの壁際で選手に棒で触れ、ターンやゴールのタイミングを知らせる
▼陸上 コーラー
 フィールド種目で助走の歩数を数えたり手拍子したりして、踏み切り位置や投げたり飛んだりする方向を伝える
▼自転車 パイロット
 2人乗り自転車の前席に乗り、ハンドルを操作する

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