第二の人生、学びから アスリート向けビジネス教育 20代で引退、元日ハムの2人が受講

2020年5月25日 02時00分

オンラインで講義を受ける森本さん(上段左)と森山さん(中段左)=日本営業大学提供

 昨季限りでプロ野球日本ハムを戦力外となり、若くして現役を引退した森本龍弥さん(25)と森山恵佑さん(26)。同学年の2人はセカンドキャリアをスタートさせるにあたり、「学ぶ」ことを選択した。社会人としての教養やビジネスの基本を身に付けようと、机に向かう毎日だ。大型野手として期待された野球界では花開かなかったが、第二の人生では必ず咲かせてみせる-。 (牧田幸夫)

キャンプで守備練習をする森本さん。後方は大谷選手=2013年2月、沖縄・国頭で

 森本さんは富山・高岡第一高から2012年ドラフトで2位指名され入団。この時の1位入団が米大リーグ、エンゼルスの大谷翔平選手だ。将来の主砲候補として期待されたが、けがもあって1軍出場は17年の5試合だけ。通算成績は9打数1安打。森山さんは石川・星稜高から専大を経て16年ドラフト4位入団。1軍は新人の年の5試合にとどまり通算11打数無安打。プロの壁にぶち当たった。
 2人が学ぶのは今春開校した「日本営業大学」。学校教育法に基づく大学ではなく、アスリートの就職支援に特化したビジネス実践塾だ。受講生は現役の経営者らから3カ月間で40回以上の講義をみっちり受け、社会人に必要な技能の習得に取り組む。その後、インターンを経て企業とのマッチングに入る。
 1期生として2人を含む元プロ野球選手4人、元女子プロテニス選手、現役のスピードスケート選手ら計8人が受講中。コロナ禍で当面はオンライン上での講義となる。
 就職せず学ぶことを選んだ理由について森本さんは「引退していろんな方と話をする中で、自分は野球以外のことは全く知らないことに気付いた。このまま社会に出たら失敗すると思った」という。「社会人としての基礎力を付け、自分は何に向いているか見つけることができれば」
 森山さんも「社会やお金の仕組みなど知らないことが多すぎると痛感した」と話し、「ITやプレゼンなど実践的なスキルから、財務や税など経営に必要なスキルまで学びたい」と意欲的。今は人生の土台作りをしている実感があるという。

オープン戦で本塁打を放つ森山さん=2018年2月、沖縄・北谷で

 日本野球機構(NPB)によると、昨季限りで引退または戦力外となった日本選手は127人。平均年齢は28・2歳だ。引き続きNPB関係の仕事に就いたのは77人で、資料が残る11年以降で最高の60・6%を占めた。次いで独立リーグなどNPB以外の野球関係に21人。一般企業への就職、進学など「野球関係以外」は20人で、大きくかじを切る人は少ない。
 球界関係者は「スタッフで球団に残ったり、他球団と選手契約を結ぶのは悪いことではないが、いずれも契約が切れたときに再び就職の心配が出てくる」と“サードキャリア問題”を懸念する。
 近年はプロ野球に限らずスポーツ選手の第二の人生を支援する動きが活発だ。だが、就職しても優秀な人ほどプライドが邪魔をして会社組織になじめないケースが多い。日本営業大学の中田仁之(ひとし)学長は「問題の根底にあるのは、アスリートが企業で働くことに対応するための教育機関がないこと。教育すればビジネスマンとしても一流になれる」と自信を見せる。
 実際に受講生の面接を担当したキャリアコンサルタントの神谷海帆さんは「リーダーシップや指導力が高い。しんが強く理想に対して努力する力を持っている人が多いと感じた」と印象を話す。
 職種によっては元プロ野球選手の人気は高く、近年の再就職では適性や希望に沿ったマッチングに重点が置かれつつある。思い描く将来について森本さんは「野球人口を増やすなど野球界に貢献できることをしたい」と話し、森山さんも「スポーツにかかわる仕事に就きたい」。
 学ぶことで自分の新たな可能性を見つけ、ビジネスマンとしての未来を切り開くことができたら-。悩める戦力外選手たちの道しるべになるだろう。

◆競技で培った能力、生かす手助けを 「日本営業大学」学長に聞く

講義をする中田学長=日本営業大学提供

 中田学長は中小企業診断士の資格を持ち、自らも関西大学時代は準硬式野球で日本を代表して国際試合を戦った経験がある。「日本営業大学はアスリートの成長を支援するコミュニティー」と力を込める。開校の経緯を聞いた。
 -セカンドキャリア問題に関心を持ったきっかけは。
 「数年前の元高校球児との出会いです。スポーツ推薦で大学に進学し、甲子園経験者として鳴り物入りで野球部に入部した。ところが練習過多が原因で故障し、野球部を退部。大学も辞めた。23歳でアルバイトを転々としていた彼は『僕の人生20歳がピークでした』と寂しそうに言った」
 -彼にどんなアドバイスを送ったのか。
 「『競技人生は終わったけど、人生ここから』と励まし、ビジネスのスキルなど社会人に必要なことを教えた。驚くほどの吸収力と集中力があったので某企業に紹介したところ、採用され、今も営業の第一線で活躍している。『僕と同じように途方に暮れている元アスリートは多い。助けてほしい』という彼の訴えが、日本営業大学着想のきっかけとなった」
 -スポーツで培った力はビジネスに応用できる。
 「彼らは優れた『非認知能力』を会得している。測定できない能力全般のことで、具体的には誠実さや忍耐心、リーダーシップ、コミュニケーション能力など。仕事の成果に影響を与えるものだ」
 -セカンドキャリアを成功させるためには。
 「アスリートはフットワークがあり、ネットワークも先輩から後輩まで広く深い。鍵を握るのがヘッドワーク。ビジネスの考え方やルール、基本を教育することが重要。具体的で実践的な学びの場を用意することで、自分の能力が仕事で生かせることに気づき、セカンドキャリアの第一歩を誤ることなく踏み出せる」

◆プロ野球選手アンケ 強まる会社員や経営者志向

 セカンドキャリア支援の重要性はNPBが毎年秋、「フェニックス・リーグ」参加の若手選手を対象に行うアンケートからも分かる。一般企業への就職や起業を志向する選手が増えている。
 引退後にやってみたい職業は? この設問に対し、これまでは高校野球やプロ野球の指導者が1位を占めた。ところが18年に「一般企業に就職(会社員)」が15.1%で前年の7位からトップに躍り出た。2007年から始まった調査だが、会社員が1位になったのは初めてだ。
 19年の調査で会社員は5位に落ちたが、前年まで一般企業で一本化されていた「公務員」「教師」を合わせれば、1位の「会社経営者(独立・起業)」の21.4%を上回る。会社経営者は前年の6位(8.3%)から大きく伸びた。
 ある球界関係者は「コーチで残れるのは限られた選手。職員やスタッフで残ったとしても、いずれサードキャリアの問題に直面する。高校野球の指導者は狭き門。より現実的になっているのでは」と分析する。

◆引退後やってみたい仕事1位の推移

2012年 プロ野球指導者
  13年 高校野球指導者
  14年 高校野球指導者
  15年 高校野球指導者
  16年 高校野球指導者
  17年 高校野球指導者
  18年 一般企業会社員
  19年 会社経営者

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