医学部の女性差別は終わっていない 不正認めない大学、解決する気ない文科省 <寄稿>井戸まさえさん

2020年3月4日 18時49分

一昨年10月、不正入試問題で当事者として記者会見で意見を述べる東京医大や昭和大を受験した医大生ら=東京・永田町の衆院第1議員会館で

 二〇一八年、文部科学省の現役局長がわが子を東京医科大学に裏口入学させ、受託収賄容疑で東京地検特捜部に逮捕された。その事件がきっかけで、女性や既卒者への一律減点など不正入試の実態が明るみに出た。今年はそれから二度目の入試シーズンとなる。受験が行われている以上は問題は決着したのであろうと多くの人が思うかもしれないが、実際は違う。不正入試をめぐる裁判は続いており、その実態すら十分に明らかになってはいない。

◆「都市伝説」で差別が温存されて

 医学部入試に女性差別や年齢差別があるという疑念は、「都市伝説」のように、もともと受験生や関係者でささやかれていた。自衛のため、過去の実績を調べて「差別が疑われる大学は志望校から外した」と話す受験生もいた。
 一方で果敢に挑戦し、不合格になった人もいる。ある一人は不正入試の発覚後、「本来は受かっていた」と追加の合格通知を受け取った。不合格の当時は「そんな大学を受けたお前がバカだ」と予備校や高校の教師から言われたという。「先生も差別の存在を確信していたのに、『戦略的』な対応を指導していた。差別を認める原因にもなったのでは」。この元受験生は、同じような被害者をもう出したくないと訴訟に踏み切った。
 確かに差別の発覚は「偶然」だった。受験生や医大内部、医学界のどこからも問題提起があったわけではない。受験生にすれば証拠もないのに訴えても、「負け犬の遠吠え」扱いされるのは必至だ。結果、差別が温存されるシステムができあがったのだろう。

◆過重労働問題にすり替え、女性に責任転嫁

 必死に努力した受験生の利益を保障するより、仲間内での既得権益の享受を優先する。大学側の発言をみると、この期に及んでも後ろめたさなどない。
 大学側は摩訶不思議なレトリックを使う。不正入試という明らかな社会的不公正を、まずは医師の過重労働や偏在の問題にすり替える。果ては、そうした医療界の問題を「女性は妊娠・出産でやめるから」と、あたかも女性が原因をつくっているかのように責任転嫁するのである。

井戸まさえさん

◆根本解決を避け続ける文科省も同罪

 今年のセンター入試の前日、聖マリアンナ医科大学は、他大学より一年遅れで、第三者委員会の報告を発表した。二〇一五~一八年度の入試で、志願票と調査書の評価において点数調整を行っていたと発表した。一八年度は、百八十点満点のテストで、女性にはなんと一律に八十点の減点をしていたと認めた。
 それなのに、同大学は今現在も「不正入試ではない」と言い張り、受験料の返金程度でお茶を濁そうとしている。大学側に補助金返還などのペナルティーを科すことを「大学が不正を認めていない以上、できない」と言う文科省も同罪であろう。国立大や他大学でも差別の疑いがあるため再調査を求める声に、担当者は「考えていない」と回答した。根本解決を避ける姿勢には、ほとぼりが冷めたころにまた同じ問題が起こるであろうと予見させる。

◆社会全体の差別 発信し続けることが大切

 問題が起きると世論が高まるが、解決の兆しが見えると関心は薄れ、本当に解決していなくても忘却される。この堂々巡りの負のループから抜け出すためには、メディアの継続的な発信と、「問題を忘れていない」と世論が表明することが必要となる。
 医学部入試の「都市伝説」と同じようなことは、日本社会に蔓延している。「女だから差別されたのではない。年齢も関係ない。実力がなかっただけ」。―そんな言葉を私は、あなたは、幾度聞いてきただろうか。それは「都市伝説」ではなく、明らかな差別だったのだ。だから言い続けなければならない。偶然でも開いた風穴から見えた社会構造こそ、医学界のみならず、社会全体に蔓延する性差別、年齢差別そのものなのだから。
 (いど・まさえ=ジャーナリスト、著書に『ドキュメント候補者たちの闘争』など)

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