個人事業主 安全網に穴 増えるウーバー配達員  労災対象外・所得補償も不十分 

2020年5月10日 12時49分
 新型コロナウイルスの感染拡大で飲食店への営業自粛要請が長期化する中、失業した飲食店員などが、ウーバーイーツの配達員に転職する例が増えている。ただウーバーの配達員など個人事業主に労災は適用されず、コロナ感染時も傷病手当に関しては支給の対象外だ。政府は個人事業主という働き方を推奨してきたが、安全網の不備が露呈している。 (池尾伸一、写真も)
 東京都杉並区の住宅地にある交差点。七日に訪ねると、その脇には花と缶コーヒーが置かれていた。自転車の大学生の男性(21)が先月六日、軽自動車と衝突し亡くなった。警察によると、ウーバーの配達員として飲食店に料理を取りにいく途中だった。
 外出できない人の利用増で契約店舗が昨年春の約八千五百店から三月末には二万店超に急増し、「エッセンシャル・ワーカー」(不可欠な労働者)になりつつあるウーバー配達員。一方で「新しく始めた人が増え、事故も多くなった」と都内で約三年、配達員を続ける鈴木堅登さんは言う。
 一見、手軽にできる配達員だが、リスクは大きい。ウーバーとは雇用関係がない個人事業主の立場で、事故で死傷しても労災保険による補償はないからだ。ウーバーは昨年秋、配達中の事故で死亡した人に一千万円の見舞金を払う独自の制度を設けたものの、けがの際の医療費は二十五万円が上限で、業務中の事故に伴う医療費を全額補償する労災保険に比べ手薄だ。
 ウーバーは「事故に遭われた配達の方のご冥福をお祈りする。再発防止に取り組む」とコメント。一方、ウーバーの配達員でつくる労働組合ウーバーイーツユニオン執行委員の土屋俊明さんは「ウーバーは安全指導や補償にもっと真剣に取り組むべきだ」と言う。
 事故時の補償に加え、個人事業主は新型コロナに感染した場合の安全網もない。都内の出版社で編集・校正の仕事をする五十代の女性は四月下旬、自宅でテレワーク中に発熱。「コロナかも」と感じ、不安と同時に生活が心配になった。女性は出版社の社員でなく個人事業主で、休むとすぐに収入がなくなるからだ。
 社員なら病休の間は企業の健康保険組合から賃金の三分の二の傷病手当が出る。しかし個人事業主らが加入する国民健康保険に手当はなく、「収入が途絶えるのは不安」と女性は言う。ウーバーはコロナに感染した配達員に最大約二万八千円を支給すると発表したが、二週間休んでも一日二千円しか出ない計算だ。
 個人事業主は政府の今回の緊急対策の対象からも抜け落ちた。厚生労働省は同じ国民健康保険の加入者でも、パートやアルバイトが感染した場合は国の負担で傷病手当を出すことにしたが、個人事業主は対象外だ。東京大の水町勇一郎教授は「同じように保険に加入し同じ保険料を払っているのに、給付で区別するのはおかしい」と指摘する。
 個人事業主の問題に詳しい川上資人(よしひと)弁護士は「個人事業主の多くは労働者と同様、企業の指揮命令下にあるのに安全網がないのは問題。制度の整備を急ぐべきだ」と訴える。
(東京新聞)

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