<花に舞い踊る>牡丹 「連獅子」に華やかな彩り

2020年5月29日 07時21分

「第82回女流名家舞踊大会」(2007年2月)より「連獅子」

 初夏。牡丹(ぼたん)の美しい季節です。大輪の花を咲かせるそのさまは百花の王ともいわれます。百獣の王である獅子とは古くから縁起の良い組み合わせとされ、「唐獅子牡丹」など古美術品にもしばしば見られます。また、獅子の身体に寄生し、獅子の命を脅かす「獅子身中の虫」は牡丹の花の夜露によって抑えられるため、獅子は牡丹の下で安らげることから、安住の地の象徴であるとも伝えられています。
 その獅子と牡丹を描くのが長唄「連獅子」です。前半は狂言師が手獅子を使い、文殊菩薩(もんじゅぼさつ)の霊地である清涼山にかかる石橋(しゃっきょう)を描写。石橋は神仏の力によっておのずと出現した橋で、そこには文殊菩薩の使いである獅子が牡丹に戯れているといいます。続く「獅子の子落とし」伝説の再現が見どころ。
 獅子は我が子を谷底に落とし、這(は)い上がってきた強い子だけを育てるという伝説です。「登ってこないのは怖(お)じ気づいたのであろうか。育てた甲斐(かい)がない」と案じる父。深い谷間をのぞくと水面に互いの姿が映り、父の姿を見つけた子は、喜び勇んで一気に谷を駆け上がり…。父が子を迎える感動の再会シーンです。ことに実の親子で上演される場合は芸道の厳しさと相まってさらに涙を誘います。
 写真のように素踊りの形式もありますが、本衣装を着けての上演では、後半に獅子の精が長い毛を振る「毛振り」も眼目です。この形式では、牡丹の立木や持ち枝のほか、基本的には、狂言師と獅子の精のどちらの袴(はかま)にも牡丹の模様が配されるなど、牡丹が華やかに一曲を彩り、日本のセンスが光ります。(舞踊評論家・阿部さとみ)

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