<容疑者救命 京アニ事件主治医の記録>下 「患者の回復、胸が痛んだ」

2020年5月30日 07時08分

2019年11月、大阪府の病院から京都市内の病院へ移送される青葉真司容疑者を乗せたドクターカー=京都市で(一部画像処理)

 「おかゆ、うめー」。昨年十月、ゼリー状の栄養剤から初めて食事をかゆに切り替えた日の言葉だ。京都アニメーション放火殺人事件の青葉真司容疑者(42)は、回復が進むにつれて無邪気な言動が増えていった。そのたびに、主治医を務めた男性医師は「これで良かったのか」と苦悶(くもん)した。
 青葉容疑者の治療を続けながら、亡くなった被害者に関する報道にも触れていた。「本来はうれしいはずの患者の回復に胸が痛んだ」。青葉容疑者は車いすに座れるようになり、順調に回復し「痛い」とリハビリを嫌がることもあった。被害者の無念が頭に浮かんで思わず厳しくたしなめると、青葉容疑者はしゅんとした様子で「頑張ります」と答えた。
 容体が安定したため、京都府警が昨年十一月八日、病院内で青葉容疑者を任意聴取した。約三時間で終了し、ジュースを差し出すと「きょうは疲れました」と漏らした。
 大阪から京都の病院へ移送されたのは、その六日後の十一月十四日。青葉容疑者には前日の夜に伝えた。「いきなり言われても…。せっかく慣れてきたところなのに」。一瞬、目を大きく見開き、少し寂しそうに話した。
 朝になって青葉容疑者を乗せたストレッチャーをドクターカーに運び込み、容体の急変に備えて主治医らも同乗した。治療は翌日以降、転院先の医師が担うことになる。「僕なんか底辺の人間。生きる価値がない」。青葉容疑者は最後まで問わず語りに胸の内を吐露していた。
 「意識が戻って治療を受ける中で、考えに変化はあったか」。ずっと聞いてみたかったことを尋ねてみた。「それは当たり前です。今までのことを考え直さないといけないと思っています」
 約三十分かけてドクターカーは京都の病院に到着した。「(容疑が事実なら)彼のやったことは許されるはずがない」。だから、最後にどんな言葉を掛けたらいいのか迷った。「もう、自暴自棄になったらあかんで」「分かりました。すみませんでした」
 ドクターカー後部の扉が開き、待ち構える報道陣のカメラのシャッター音が響いた。「もう少し早く、誰かが手を差し伸べることはできなかったのか」。そう考えながら、ストレッチャーを院内に運び込んだ。

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