日本のお弁当文化 権代(ごんだい)美重子著

2020年5月31日 07時00分

◆小さな箱に日本人の精神性


[評] 平松洋子(エッセイスト)


 一食をまかなう小さな箱。その内部に詰まっている多様な日本文化を、本書は米ひと粒見逃さぬ目配りを効かせて解き明かす。
 お弁当について書かれた文化論は意外に少ない。著者はホスピタリティ論を専門に研究、テーマは「日本のもてなしと食文化」だと知って合点がいった。日本人の足取りとしての食の歴史、時代や社会の諸相、それらとお弁当との接合点を探究しつつ、と同時に掘り起こすのは日本人の精神性だ。作る側/食べる側、渡す側/受け取る側、見せる側/見せられる側。お弁当がたんなる携行食の範疇(はんちゅう)を超えるのは、つねに他者が介在する存在であるからだろう。
 庶民の暮らしを下支えしてきた多彩なお弁当の数々。農作業の道具とともに持参した麦飯や梅干し入りのメンパ。山に長期間入るマタギが最後の糧として食べる、生米の粉で作るカネモチ。海上で危険に身をさらす漁師が携えた船弁当。戦国時代に生きた雑兵の奥の手、兵糧丸や芋茎縄(いもがらなわ)……なるほど、日本人はお弁当によって生き永らえ、しぶとく命を繋いできた側面を持つ。戦後の復興をもり立てたドカ弁によっても。
 そのうえで注目するのは、花見や芝居見物など遊興と結びついた江戸期のお弁当だ。花見弁当、重箱、幕の内弁当、助六弁当ほか、それぞれの出自と江戸文化や風俗との関係をこまやかに解説、庶民の喜怒哀楽を共有してゆく。
 駅弁の存在意義を読み解く第四章では、災害支援の要素を指摘。駅弁は被災者を助ける役目も果たしてきたという。「交通の要所である駅を職場とすることから非常時に社会的役割を果たすことも駅弁業者の責務、という考え方が昔から浸透していた」
 お弁当は、共同体を維持する機能をも持つ。それは、神との共食として食事を捉える日本人の思想があればこそ。この展開と着地に膝を打つ。
 そこで思った。コロナ禍の状況下、飲食店が活路を見いだすお弁当はテークアウトという名前の共食でもある、と。
 オールカラー、豊富な図版も説得力の後ろ盾だ。
(法政大学出版局  ・ 2420円)
1950年生まれ。ヒューマン・エデュケーション・サービス代表。共著『新現代観光総論』。

◆もう1冊

加藤文俊著『おべんとうと日本人』(草思社)

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