無関心の壁を崩したい 『障害者差別を問いなおす』 二松学舎大准教授・荒井裕樹(ゆうき)さん(39) 

2020年5月31日 07時00分

本人提供

 書名の「問いなおす」という言葉にひかれて手に取って、帯に書かれた問い掛けにハッとした。−「差別はいけない」。その理由を言葉にできますか?
 「そもそもなぜ差別がいけないのか、一から言葉にして説明しようとすると大変難しいですよね。でも、それを一つ一つやってきた人たちがいる。その歴史をきちんと伝えていくことが大事だと思うんです」
 本書は、一九六九年に結成された「日本脳性マヒ者協会青い芝の会神奈川県連合会」の取り組みを中心にたどる。横浜市で七〇年にあった障害児殺害事件で、会は重度障害のある子どもに手をかけた母親への減刑嘆願に反対した。障害児の生存権がないがしろにされることは、いま生きている障害者の生存権をも脅かすことになる、などの理由からだ。
 七〇年代に川崎市であった「川崎バス闘争」では、車いす利用者の乗車に介護人の付き添いとバス座席に移ることを求めたバス会社に対し、普通の人がバスに乗るように、車いすでも条件や制約を受けずに利用できるよう訴えた。いずれも障害者差別に対して、当事者たちが果敢に抗議行動を展開した歴史だ。
 自身の専門は障害者文化論と日本近現代文学。前者は東京大大学院時代、作家北条民雄(一九一四〜三七年)が過ごしたハンセン病の国立療養所多磨全生園(ぜんしょうえん)に通い、元患者らに話を聞いたのがきっかけになった。病気や障害のある人たちが書いた詩や俳句に出合い「言葉を通じて自己表現するのが大事な存在証明だったり、仲間との一体感を高める活動だったりしたことを伝えていけたら」と考える。
 研究を続ける中で、障害者問題に関心を持ってもらう難しさを痛感している。二〇一六年に知的障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者ら四十五人が殺傷された事件さえ、風化が懸念される状況に「誰かの人権が踏みにじられても気にならない社会を、今、私たちは作りつつあるんじゃないか」と危機感を募らせる。
 機会をとらえて「自分たちの社会に関わる問題」との発信に努め、今回、手に取ってもらいやすいよう初の新書に挑んだのも、障害者問題に縁遠かった人たちに響くことを願うからだ。「無関心の壁みたいなものを、崩したいという思いがあります」
 ちくま新書・九二四円。 (北爪三記)

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