<ふくしまの10年・マスター、もう少し聞かせて> (9)浪江町津島の理不尽

2020年5月30日 07時05分

除染作業が進む福島県浪江町津島地区

 福島県内で最も頻繁に取材してきたのは、浪江町津島地区からの避難住民だ。彼らほど理不尽な境遇にある人たちはいないと思えるからだ。
 浪江町は東西に長い。東京電力福島第一原発に最も近い地区は約四キロだが、山間部にある津島地区は三十キロほど離れている。しかし、原発から出た汚染蒸気は風に乗って北西方向に流れ、雪によって大量の放射性物質がこの地に降った。現在も津島地区は許可なく立ち入りできない。
 あらためて複数の関係者に取材したが、当時、町役場には何も知らされなかった。海側の町中心部の住民たちは、原発から離れようと津島地区に向かった。人口千五百人ほどの山あいの集落に、大勢の町民が集中した。
 当時、町役場職員で津島診療所に勤務していた石井絹江さん(68)は振り返る。
 「一日四十人しか診察に来ない場所に、(事故翌日の)三月十二日以降、百人以上の町民が押し寄せた。受付で怒鳴る人もいた。寒い外には、紙おむつをしたままのお年寄りが順番待ちの列に並んだ。若い男性職員は精神状態が不安定になった」
 昼曽根(ひるそね)地区の佐々木茂さん(65)は、親族四人と二本松市に避難した。放射能汚染のチェックを受けるが、小学四年生の女の子は、髪を何回洗っても引っ掛かる。寒いのに作業が終わらない姿を見ていられなかった。
 現在、津島地区では家屋解体が進む。その様子に、佐々木さんは「使いたくない言葉だが、われわれは『棄民』だ。国も県も、帰還するための見通しを示さない。このままでは地図から消えるんです。津島は」と声を詰まらせた。

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