まだ警戒必要なのに…国会ではセシウム基準値緩和の議論

2020年6月1日 07時40分

食品基準値を超えたコシアブラ=福島県二本松市で(木村真三・独協医科大准教授提供)

 東京電力福島第一原発事故から十回目の山菜シーズン。出荷規制がかかっていない場所で採ったとされ、直売所やインターネットで売られていた山菜コシアブラから食品基準(一キロ当たり一〇〇ベクレル)を超える放射性セシウムが検出された。いまだに警戒が必要なのに、国会では与党議員から基準緩和を促すような発言が出ている。 (大野孝志)
 「驚いた。しかもネット上で個人売買されている。原発から遠く、規制されていない場所だからと出品者は油断したか、汚染実態を甘く見たか…」。福島市のNPO法人「ふくしま30年プロジェクト」の阿部浩美副理事長(50)は調査結果にこう語る。
 プロジェクトでは個人売買サイト「メルカリ」と「ヤフオク!」でコシアブラを買い、セシウムを測定した。すると四件が基準値を超えた。いずれも出荷規制がかかっていない地域で採れたとされていた。
 両サイトには飲食物を出品できるが、賞味期限切れや要冷蔵の物など、安全や衛生面で問題がある物は禁止されている。そもそも汚染された山菜を売れば、食品衛生法違反となる。
 旧ソ連・チェルノブイリ原発や福島第一原発の周辺で住民の被ばく状況を調査し続けている木村真三・独協医科大准教授の調査でも同様の結果が出た。
 木村氏は四月下旬から、食べ物での内部被ばくを調べる手法の「マーケット・バスケット法」で山菜を調査。各県を車で回り、人口十万人以上の都市を中心に直売所や道の駅で山菜を購入。新型コロナウイルス対策で毎朝検温し、マスクや消毒を徹底した。
 その山菜を大学の福島分室にあるゲルマニウム半導体検出器で測定。多くは基準値を下回るか不検出だった。しかし、出荷が規制されていない秋田県産と表示されたコシアブラから基準の二倍を超える一キロ当たり二一〇ベクレルを検出した。
 こんな状況なのに、国会では基準緩和に進みそうな質疑があった。
 五月十九日の衆院復興特別委員会で、福島選出の根本匠元復興相(自民)が質問に立ち、現在の食品基準を「科学的、合理的か」と指摘。厳しすぎる基準で出荷規制が続いたために「一次産業は大きな打撃を受けている。政策判断の基本は科学がベースにあるべきだ」と訴えた。
 福島選出の菅家(かんけ)一郎復興副大臣が「基準に関する科学的な検証の重要性は十分理解している。被災地や関係者の意見も聞きながら議論したい」と答え、福島の地元紙は「基準値を検証へ」と記事を掲載した。
 復興庁に確認すると、井浦義典参事官が「副大臣は検証するとは明確に言っていない。元復興相も基準値を『見直せ』というわけではない。今後の方針は検討していくとしか言えない」と答えた。
 木村氏は国会のやりとりを警戒する。「政府が基準緩和に向かえば、国民の被ばくリスクは高まる。直売所やネット上で売る人の被ばくへの意識が風化したから、基準値超えの品が出た。出荷する人に責任を持たせ、それを行政が監視するダブルチェックの体制が必要だ。風評被害を恐れるあまり真剣に調べない自治体も、実害が続いていることを認識するべきだ」
 福島県飯舘(いいたて)村で土や山菜の汚染状況を調べている伊藤延由(のぶよし)さん(76)は「農作物なら、田畑の土を管理して汚染を防げる。基準を緩和しても良いだろう。しかし、山菜やキノコはするべきではない。汚染は場所により濃淡が激しい。特に山は除染しておらず、汚染が残っている。山菜やキノコを流通させるなら、基準の緩和より全量測定した方がいい」と語った。

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