<来夏の青写真>走って鍛える登る力 持久力も早さもアップ スポーツクライミング

2020年6月1日 19時01分
 人の集まらない公園に足を運び、ひたすら短いダッシュを繰り返す。30~40メートルの直線を走っては、もも上げなどをして戻り、再び全力で駆け抜ける。スポーツクライミングで世界トップを走る楢崎智亜ならさきともあと野口啓代あきよ(いずれもTEAM au)にとって、初めて取り組むトレーニング。「口から内臓が出そう」。最初はそんな悲鳴も上がったという。
 これを始めたのは、五輪延期の決定から3週間ほどたった4月半ば。2人にトレーニングを持ちかけた有吉与志恵よしえコンディショニングトレーナーはビデオ会議アプリでの取材に「これまでこういうことを全くしてなかったみたい。なかなか大変でしたよ」と振り返る。最初は5本を3セットこなすのが精いっぱい。疲れ果てて、食事中に寝てしまうありさまだった。

2月のボルダリング・ジャパンカップで課題に挑む楢崎智亜(上)と野口啓代(下)=いずれも東京・駒沢屋内競技場で

 「そもそもこの2人、基礎体力があるのかしら」という有吉トレーナーの根本的な疑問が、トレーニングを始めるきっかけになった。指だけで体重を支える体の強さは目を見張るものがあったが、それが長続きしない。数十手のホールド(突起物)を登り続けて持久力を養う練習をすると、ある時を境にがくっとパフォーマンスが落ちた。楢崎はそれを自虐的に「雑魚(ざこ)化する」と呼んでいた。
 クライミングの世界で体力強化と言えば壁を登り込むくらいで、走って鍛えることはほとんどしない。それは昨夏の世界選手権の複合を制した楢崎、同じく複合銀メダルの野口も例外ではなかった。陸上短距離出身の有吉トレーナーはランニングトレーニングを試してみたかったが、五輪までの限られた時間で冒険するリスクも感じていた。その五輪が来夏に延期され、じっくり取り組む時間ができた。
 五輪で行われる複合3種目のうち、制限時間内に登った高さを競うリード、完登した課題の数で勝負するボルダリングについては、直接的な効果を期待している。無酸素運動の繰り返しによって筋肉の質が変わり、「疲労感が全然違ってくる。壁の中で『体力が持つな』という感覚が出てくると思う」。
 一方、登る速さを競うスピードにも好影響があるというのが有吉トレーナーの見方だ。スプリントで下半身の筋力がアップすれば、ホールドを蹴る力も上がる。とりわけ、瞬発的に大きな力を出すのが苦手な野口の伸びしろは大きい。「この期間で啓代ちゃんはもっと最強になるかもね」。コーチ陣の間では、そんな声も上がっているという。 (佐藤航)
<東京五輪スポーツクライミング日本代表の現状> 2019年世界選手権複合で男子金メダルの楢崎智亜、女子銀メダルの野口啓代の代表入りが決まっている。残る男女各1枠を巡っては、国際スポーツクライミング連盟と日本山岳・スポーツクライミング協会の見解が対立。国際連盟は世界選手権複合で男子4位の原田海(日新火災)、女子5位の野中生萌みほう(XFLAG)が出場を決めたとする一方、日本協会は有資格者の中から国内選考で選ぶと主張してスポーツ仲裁裁判所に提訴した。

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