ネット中傷対策 自民が厳罰化検討 「表現の自由」規制に懸念  

2020年6月2日 07時12分
 会員制交流サイト(SNS)で誹謗(ひぼう)中傷を受けていた女子プロレスラーの木村花さん(22)が亡くなったことに関し、自民党は一日、インターネット上での悪意のある投稿を抑制する制度づくりの議論を始めた。発信者特定手続きの簡素化や厳罰化も視野に、今国会中に提言を取りまとめる。政府も現行法改正に乗り出している。一方で規制が行き過ぎれば、表現の自由の制限につながりかねない。 (坂田奈央)

■年々と増加

 「多くの関係者が注目している。スピード感を持って進めたい」。自民党の岸田文雄政調会長は会合で、議論を急ぐ考えを示した。
 会合には日本医師会の政治団体「日本医師連盟」の関係者らが出席。新型コロナウイルス感染に関し、事実ではない院内感染の情報を書き込まれた事例などを紹介し、明確な被害者の速やかな救済や、被害者の心のケア充実などを訴えた。
 ネット上での名誉毀損(きそん)や侮辱を意図した匿名の書き込みは、年々増加している。総務省の「違法・有害情報相談センター」によると、昨年度の相談件数は五千百九十八件で、二〇一〇年度の四倍に膨らんだ。最近は、コロナ感染者や医療従事者への中傷も深刻だ。

■泣き寝入り

 現状は、被害者の泣き寝入りが少なくないという。発信者を特定する手段は「プロバイダ責任制限法」で規定されている。名誉毀損など正当な理由があれば、プロバイダー(接続業者)などに対し、投稿者の氏名や住所などを開示請求できる。
 それでも「権利侵害が明らかでない」などの理由で開示されないケースが多い。開示されず裁判に進むのは、金銭的、時間的ハードルが高い。海外プロバイダーの場合はなおさらだ。
 そうした実情を踏まえ、自民党会合では、出席議員から誹謗中傷や人権侵害に当たる書き込みをした発信者を特定する手続き簡素化や、侮辱罪などの厳罰化を求める声が相次いだ。
 総務省は四月に有識者会議を立ち上げ、発信者情報の開示手続き円滑化などに向けた議論を始めている。高市早苗総務相は一日の衆院倫理選挙特別委員会で、七月に中間取りまとめを行うと明言。同省では来年の法改正を目指している。

■無免許運転

 一方で自民党会合では、厳罰化などについて「表現の自由の妨げにもなりかねない」など、慎重な検討を求める声も出た。
 IT関連の紛争に詳しい神田芳明弁護士は「現状は被害者の負担が大きすぎる。他方で表現の萎縮効果が働かないよう、バランスを考えることは極めて重要な観点だ」とした上で、こう指摘する。「現状のネットは『無免許運転の自動車しかいない道路』だと感じる。制度改正や厳罰化の議論のみに終わらず、表現活動への理解を深める観点こそが重要ではないか」

◆規制へ批判 各国腐心 米リアリティー番組21人自殺

 悪意のある投稿に追い詰められるケースは海外でも後を絶たない。
 「感情任せのばか女」。米リアリティー番組「バチェラー」の元出演者は番組で3月、涙を浮かべ、現在の出演者がオンラインで受け取ったメッセージを読み上げた。番組は独身男性の心を射止めようと、共同生活を送る女性が競い合う内容で、嫉妬などをむき出しにする場面もさらされる。米メディアによると、2004〜16年の間にこの番組や、同様の番組の出演者計21人が自殺した。
 英国でも島に滞在した男女の恋愛を追うリアリティー番組に出た女性が18年に自殺。コメント投稿が「恐ろしい」と地元メディアに漏らしていた。
 ドイツは18年1月、中傷を掲載したネット事業者に対し、違法な投稿が報告されてから原則24時間以内に削除しなければ、最大で5000万ユーロ(約59億円)の罰金を科す法律を導入。表現の自由を損なうとの批判の声も上がった。
 韓国では匿名の中傷が殺到した女性歌手ソルリさん=当時(25)=が昨年10月に自ら命を絶った。韓国はネット掲示板に書き込む際に実名登録を義務付ける「インターネット実名制」を07年に法制化。だが反発が起こり、憲法裁判所も訴えを認めて12年に違憲判決を下し、実名制は頓挫している。 (共同)

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