「命の優先順位低かったのでは」 望んだ治療かなわず、コロナで母失った男性悲痛

2020年6月4日 07時24分

4月は東京の医療がひっ迫し、転院もままならない人も多かったという

 東京都内の病院で新型コロナウイルスの集団感染により陽性となった女性(74)が五月初旬、呼吸不全で命を落とした。治療薬として効果が期待されるアビガンなどの投与や治療環境が整った病院への転院はかなわなかった。都内で感染者が急増していた時期とも重なっていた。女性の息子(38)は「母のように高齢で既往症もある患者は、命の優先順位が低くなってしまうのか」と静かに語った。 (市川千晴)
 脳腫瘍の後遺症の治療などで長期入院中だった男性の母親は、集団感染が発生した四月初旬に発熱。陽性が判明した三日後には肺炎で酸素マスクの装着となるなど急速に病状が進み、人工呼吸器を装着した。
 主治医から「膵(すい)炎治療薬のフサンやステロイド、抗生剤などを投与する」と説明された。体外式膜型人工肺(ECMO)など治療環境と人材の整う病院へ転院できないかと主治医に相談したところ、「保健所に提出した転院リストにも載せてある」と既に複数の病院に打診し、紹介状などの準備を進めていたという。
 だが、病院は保健所の指導で陽性患者を院内で治療する方針に変更。さらに当時は都内で感染者が急速に増加し、他の病院もベッドに空きがなかったため、透析治療の陽性患者以外の転院は実現しなかった。
 父親は毎日母親に面会していたが、病院が感染防止のため面会禁止とした三月上旬から家族は会えない状態が続いた。「このままでは死を待つだけの状態だ。なんとかアビガンを試していただけないか」。都内の医療機関に勤務し知識もある男性ら家族は、著名人が効果を上げたアビガンの使用を主治医に訴えた。
 しかし、感染からわずか一カ月、女性は息を引き取った。男性は「母に会って声をかけ励ますこともできないまま最期を迎えた。母のような現実も多いと思う。主治医の先生は連日休まず病院にも感謝しているが、この経験を話すことで、事態の改善や第二波への備えにつながることを願っている」と話した。
 アビガンの使用は、藤田医科大(愛知)などが進める臨床研究に病院が参加し、患者が同意した場合などに投与できる。女性が入院していた病院は取材に「院内の治療は保険適用の薬のみで、臨床研究に参加して初めて投与できる倫理委員会の仕組みはなく、審査の経験もない。複雑な書類申請の手続きはハードルが高い」と回答した。
 また「院内感染のピーク時に、アビガンを積極的に使用できないか保健所や都に掛け合ったが、いずれも『難しい』という返事で、倫理委の手続きを藤田医科大などが代行してくれる仕組みも知らされなかった」と説明した。

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