<食卓ものがたり>寝かせる時間が勝負 三河みりん(愛知県碧南市)

2020年6月6日 07時46分

蔵で、もろみをかきまぜる職人=愛知県碧南市で

 愛知県碧南市の「九重味淋(みりん)」。焼酎の香りが立ちこめる蔵には高さ約二メートルのタンクがずらりと並び、職人が櫂(かい)棒を使い、中に入った「もろみ」をかき混ぜていた。熟成を進める「櫂入れ」という作業だ。もろみは米こうじ、蒸したもち米に焼酎を加えたもの。「もち米が焼酎にとけていない最初のうちは固くて櫂棒が入りません」と品質管理担当の稲垣大さん(44)は言う。
 二百五十年近く前、江戸時代の一七七二年創業。みりんはもともと、「甘いお酒」として女性の間で広まり、やがて高価だった砂糖の代わりに調味料として使われるように。同社のある愛知・三河地方でみりん造りが盛んになったのは、醸造に適した温暖な気候に恵まれていること。地域を流れる矢作川周辺で原料となる米がよくとれ、湾を隔てた対岸の知多半島で酒造りが活発だったことも理由だ。できたみりんは海路で江戸に運ばれ、味の良さが評判になった。
 昔ながらのみりん造りは「待つ時間」が勝負だ。もろみはタンクの中で二カ月間寝かせる。香りと甘味、うま味が十分に増したら、職人が布袋に詰め、槽(ふね)と呼ばれる箱の中に積み重ねていく。この時、もろみ自体の重みで布目からじわじわとしみ出した液体が、みりんだ。
 とはいえ、まだ完成ではない。二日間をかけて圧搾したみりんを、今度は数カ月から三年以上熟成させる。その間に雑味や濁りの原因となる、おりが底に沈み、ようやく澄んだみりんができあがる。もろみを搾った後に残るみりん粕(かす)は、愛知特産の守口漬を作るのに使われるなど無駄がない。
 「これだけ待つのは、まろやかで、冴(さえ)が良いみりんを造るため」と稲垣さん。上品なこはく色の輝きは、長い時間と職人の手間によって培われていた。
 文・写真 吉田瑠里

◆味わう

 同社の看板商品「九重桜」(500ミリリットル、999円)は圧搾後の熟成期間が約1年半。この期間を3年に延ばし、こくのある味わいの「御所桜」(同、2750円)もあり種類は豊富だ。いずれもホームページから購入できる。
 敷地内のレストランでは、九重桜を使った角煮などの食事のほか、煮切ったみりんをシロップのようにかけて食べる「みかわぷりん」=写真(左)=やみりん粕を使ったチーズケーキ=同(右)=も提供。シェフの桑原正宏さん(51)は「みりんの甘味は日本人になじみがあって、スイーツにもよく合う」と話す。問い合わせは同社=電0566(41)0708。

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