「NNNドキュメント」50周年 地方の宝 全国放送で

2020年6月7日 08時35分

2月に出版された「NNNドキュメント・クロニクル1970-2019」を手に番組の歴史や伝統を語る日本テレビの有田チーフプロデューサー=東京都港区の日本テレビで

 幅広い視点で社会の出来事を伝えてきた日本テレビ系のドキュメンタリー番組「NNNドキュメント」(日曜深夜零時五十五分)が今年五十周年を迎えた。日曜深夜(月曜未明)という恵まれない時間帯にもかかわらず、良質な番組を送り続けることができた背景には、地域の話題を全国に伝えたいという系列局の意欲的な姿勢があった。 (藤原哲也)
 「五十年続いたのは、系列局が本気を出してベストの取材で制作してくれたから。それに視聴者の方が応え、見ていただいた。そこに尽きる」。二〇一五年から番組を担当する有田泰紀(たいき)チーフプロデューサー(CP)(52)は、そう振り返る。

番組が始まった1970年当時のタイトル映像=日本テレビ提供

 初回は一九七〇年一月四日。当時はキャスターが進行するスタジオ形式の番組で、現在の系列局によるドキュメンタリー方式となったのは七四年からだ。放送回数は二千五百回を超え、日テレでは「3分クッキング」「笑点」に次ぐ長寿番組となる。
 長い歴史の中からは、名作も生まれた。薬害による障害児とその家族を十三年にわたり取材した七五年放送の「明日をつかめ!貴(たかし)くん 4745日の記録」は、米国の権威ある国際エミー賞(ドキュメンタリー部門)を日本のテレビ番組で初めて受賞した。ほかにも、減反政策に苦しむ東北の米農家や、東日本大震災を題材にしたシリーズ放送などを続け、高い評価を得ている。

国際エミー賞を受賞した1975年放送の「明日をつかめ!貴くん」=日本テレビ提供

 番組に通じるのは、日常を生きる人々に迫りながら、しっかりと普遍的な問題提起などにつなげていることだ。「人間を中心とした『下から目線』を大事にしている」と有田CP。
 では、番組企画はどのように決まるのか。大きな柱は、系列全二十九局の担当者が参加し、合宿形式で行う年二回の企画会議だ。ここには年間約三百本の企画が持ち込まれ、六つのグループに分かれて議論。グループ投票で最も票を集めた企画がまず採用される。そのため「年間約五十本のうち、十二本は最もオープンでフェアな状態で決まる」(有田CP)という。
 さらに投票で一位を逃しても、グループの責任者の推薦で放送が決まる企画も多い。全体の約七割を占める地方局の制作は、こうして決まることが多いため、企画会議を「甲子園」に例える。地方から全国放送を目指す伝統が脈々と受け継がれ、番組を支えている。
 地方局にとっては番組の存在自体が大きな励みだ。カニの密輸などを題材に制作経験がある札幌テレビの山内康次プロデューサー(49)は「全国放送だとローカルにはない広がりがある」と強調。カニ密輸の回では、放送後に国際的な密漁防止協定につながったといい、「普段と違う考え方が身に付く番組」と話す。


 難病を公表した女性バイオリニストの番組を四月に放送した同局の水谷潤子ディレクター(52)も「地域に埋もれた宝を、全国の人に知ってほしいとの思いから意識が高まっていった」と制作の背景を明かす。
 五十周年を迎え、新たな動きもあった。二月には、東京大学出版会が五十年の歴史を記録した「NNNドキュメント・クロニクル」を出版。同月には「あなたは、いま幸せですか?」をテーマに二十九局がそれぞれ制作した、約五分のショートドキュメンタリーをつなぐ三時間の特番を放送した。一部作品はネット上で今も公開しており、今までにない試みだった。
 有田CPはスマートフォンによる動画視聴の普及などを挙げ「今の視聴習慣にフィットしやすいとの考えもあった」と意図を説明。さらに「視聴者と一緒に年を重ねていく番組では駄目。常に新陳代謝が必要で、何を残して、何を捨てるか常に考えていく必要がある」と前を見据える。
 一〜三月の関東地区の世帯視聴率(ビデオリサーチ調べ)は平均2%台。伝統に安住せず、新たなドキュメンタリー番組の形を模索する「Nドキュ」。新陳代謝しても、時代を記録する役割は当分続きそうだ。

◆自由度高い深夜枠 内容は各局任せ

<札幌テレビと日本テレビの元記者で、貧困をテーマにした「Nドキュ」を多数制作し、「ネットカフェ難民」の名付け親である上智大の水島宏明教授(ジャーナリズム論)の話> 週一回のレギュラーで全国放送の枠があることは、各地の記者やディレクターにとって非常にやりがいがある。自分が地方局にいたので実感しているが、地方でいくら反響があっても、全国で流れるのはやはり違う。Nドキュがいいのは、放送内容が最終的に各局任せであること。作品に当たり外れがあっても、受け入れる余裕がある。ドキュメンタリーの制作者は孤独だが、合宿を通じてアドバイスをもらったり、人間関係が強くなったりするのも大きかった。深夜の方が自由度は高いし、やりたいことができる。アナクロニズム(時代錯誤)でも地道に番組を守り続けてほしい。間違っても視聴率を追求するような番組にはなってほしくない。

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