<ひと物語>児童施設出身者つなぐ ウェブメディア立ち上げ運営 田中麗華さん

2020年6月8日 07時14分

「思いがぶれないように、日記に書き留めている」と話す田中さん=さいたま市内で

 児童養護施設を十八歳で退所して五年。同じような境遇の人の中には、頼れる大人がおらず、夢を諦める人も少なくないと知った。現状を伝えることで、手を差し伸べられる社会へ変えていけたら−。そんな思いを込めて四月下旬、社会的養護専門ウェブメディア「たすけあい」を立ち上げた。
 さいたま市の田中麗華さん(24)が施設に入所したのは、小学二年生のとき。激しい夫婦げんかが絶えず、母親が家を出た。経済的な理由から、兄姉三人とも施設に保護された。母親の元に帰りたいと泣く日もあったが、六年生の頃には無理だと悟った。施設でのにぎやかな生活も楽しかった。
 「自分は人と違う」と初めて感じたのは、退所後に保育士の資格を取るため短大へ入学してから。生活費のためアルバイトを掛け持ちし、友人から遊びに誘われても行く余裕がない。「どうしてこんなに必死にならないといけないの」。次第に一人でいることが多くなった。
 さえない毎日をなんとかしたくて、心の奥にしまい込んでいた「モデルになりたい」という夢と向き合い事務所に所属したが、うまくいかない。心配した母の援助もあり、コーチングを半年間受けてみた。
 「施設出身? すごく特別な経験じゃない」。肯定され、はっとした。施設出身と公言して出場した二〇一八年のミス・ユニバース県大会で準優勝。ファッションショーにも出演し、モデルへの道は区切りを付けた。
 NPO法人の広報を務めながら施設出身者として取材も受けるようになり、講演活動を始めた。他の施設出身者と出会うことも増え、金銭的理由で進学を諦める子や、会社でのトラブルを誰にも相談できないまま辞めてしまう人もいると知った。
 周りの支えがもっとあったら、生きづらさはだいぶ軽減されていたはずなのに、講演先では「施設出身はだめだ」と偏見を持つ学校の先生もいた。
 「知らないって罪。社会的養護とつながりがない人にも伝わるメディアをつくりたい」。新型コロナで外出自粛中、これまでに書きためた日記を読み返し、ウェブメディアを立ち上げる決心がついた。リポーターとなって「児童養護施設ってどんなところ?」「里親訪問記」など、話し言葉で親しみやすく伝える。

「たすけあい」の記事

 施設への寄付のマッチング支援や、社会的養護に関して声を上げてきた人を掘り起こす記事など、アイデアが止まらない。ユーチューブでの動画配信も始めた。「生い立ちに関係なく、自分の気持ちに正直になってほしい」。一人で社会に飛び出す彼らと、応援したい人とを笑顔でつないでいく。(浅野有紀)
<たなか・れいか> 東京都出身。世田谷区の児童養護施設で10年間暮らす。施設退所者へ家具や家電を寄贈する東京都のNPO法人「プラネットカナール」広報。昨年9月、東京都里親制度のPR動画に出演した。「いつか困った時に声を掛けてもらえる存在であるように」と、LINE(ライン)で施設を出た若者とつながる。
 ※「たすけあい」のサイトはこちら

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