新型コロナ禍で東日本大震災の伝承活動に逆風 取材中断、イベント中止、資金難

2020年6月8日 07時21分

震災の記録誌作りのために聞き取りを受けた関係者ら=2019年10月、宮城県庁

 東日本大震災の教訓を継承する取り組みがコロナ禍のあおりを受けている。被災自治体は「発災10年」「復興五輪」を意識して記録誌作成などを進めてきた。中断や延期を余儀なくされ、節目に合わせたPRができなくなったケースもある。今後の活動をどうしたらいいか。 (榊原崇仁)
 四月以降に作業がストップしたのが宮城県の震災記録誌作りだ。県職員延べ千二百人の証言により、二〇一一年三月の発災から十年間を総括する一大事業で、二一年度末までに報告書をまとめた上、インタビューの様子を収めた動画とともに公開する予定だった。
 昨年八月に着手し、これまでに二百人ほどの証言を集めた。だが、複数の職員と対面して行う聞き取りは「三密」が懸念されるため、コロナ禍で中断せざるを得なくなった。第二波の心配もあって再開の判断が難しく、完成が二二年度以降にずれこむ可能性がある。
 同県名取市の震災復興伝承館は「震災十年目」に当たる今年三月の開館の式が、コロナ禍で縮小を迫られた。開館自体も二度延期され、五月末にずれこんだ。
 似たケースが福島県が双葉町内で建設中の「東日本大震災・原子力災害伝承館」だ。当初は「復興五輪」を当て込み、今夏のオープン予定だった。五輪自体が延期された上、展示用のジオラマやパネルの制作などを担う業者が東京から来られなくなり、開館時期は今秋に先送りされた。
 世間はコロナ一色でも、震災の経験を継承する取り組みは重要な意味を持つ。
 大阪大の平川秀幸教授(科学技術社会論)は「過去に経験がない複合災害。どんな被害が生じ、どう克服したか、どんな課題が残るかを共有することで、同様の災害に備えられる。原発事故で言えば、避難生活の継続や住民間の分断など、現在進行形の問題もある。改めて社会の関心を高め、政治や行政を動かす必要もある」と語る。
 節目を生かせなかったケースは評価が難しい。「世間の関心を集めやすく、多くの人と一緒に考える契機になるのが節目。その一方で『問題が解決した』という幕引きにも使われかねない」(平川氏)ためだ。
 ただコロナ禍のインパクトが強いあまり、震災の記憶が今以上に薄れていく懸念が残る。そんな中で平川氏は「コロナ禍と震災は共通する課題が多い。公助の範囲や社会的弱者のケア、補償のあり方などがそれに当たる。なぜ似た課題が繰り返し生じるか検証、周知し、どんな社会が望ましいか議論するよう、世論を喚起すべきだ」と継承活動の方向性を提言する。
 記憶の風化が懸念される中だからこそ、継承活動を続ける意味もある。東北の語り部団体などでつくる「3・11メモリアルネットワーク」(宮城県石巻市)の浅利満理子さんは「これからは震災を知らない世代も増えてくる。十年という節目の後の活動が大切になる」と強調する。
 継承活動を行う団体には今、逆風が吹いている。同ネットワークの会員団体向けアンケートによると、語り部によるイベントや現地ガイドはキャンセルが相次ぎ、「三月の参加者数が前年の半分以下になった」と回答した団体は全体の八割に上った。大型連休がある五月も同様の傾向が続いた。結果的に事業収入が大幅に減り、資金難を懸念する団体も出てきているという。
 東北大の佐藤翔輔准教授(災害伝承学)は「細く長く活動を続けるための計画を改めて練らなければならない時期に来ている。活用できる助成金として何があるか、人手をどう確保すればよいか、早急に考えていくべきだ」と述べる。

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