<記者のおすすめ>「鬼滅」の次はこれっ! 今村翔吾の3冊

2020年6月8日 08時20分
 今、最も勢いのある歴史時代小説家といえば、今村翔吾(しょうご)ではないだろうか。熱い友情や人への優しさが際立つ作風は大ヒット漫画『鬼滅(きめつ)の刃(やいば)』に通じるものがある。最新作『じんかん』の発売を祝し、読むと胸が熱くなる今村作品を紹介したい。(運動部長・谷野哲郎)

◆歴史×友情×優しさ 胸が熱くなる時代小説

 もし、稀代(きたい)の悪党が悲しいほど友達思いで理想を追う男だったなら−。そんな漫画のような視点で歴史を読み解いたのが、<1>『じんかん』(講談社、二〇九〇円)だ。主人公は戦国三大梟雄(きょうゆう)の一人、松永弾正久秀(だんじょうひさひで)。自らの野望のために手段を選ばない悪党が新しい解釈で生まれ変わった。
 ときは戦国時代。戦乱で親を失った十四歳の九兵衛(くへえ)は、弟の甚助(じんすけ)や同じ境遇の子どもたちと野盗の真似(まね)をして生きていた。大切な仲間を殺され、絶望する九兵衛は運命に導かれるように、三好元長に出会う。元長の夢は「武士を廃し、民が政を執る世の中を作ること」。九兵衛は松永久秀を名乗り、元長を支える決意をする。
 友のため、民のため、久秀は仲間と共に力を尽くす。しかし、時代に押し流されるように数々の汚名を着せられ、極悪人に仕立て上げられていく。人の世で生きる意味を問う一冊だ。
 今村は京都府生まれの三十五歳。直木賞候補となった『童の神』で注目を集めると、<2>『八本目の槍(やり)』(新潮社、一九八〇円)で第四十一回吉川英治文学新人賞を受賞。評価と人気を高めた。
 『八本目の槍』は、加藤清正、福島正則ら豊臣秀吉の配下で「賤ケ岳(しずがたけ)の七本槍」と呼ばれた七人の侍の視点で、非運の武将・石田三成を描く連作短編集。最期まで秘めたる友情を貫く三成が愛(いと)おしい。
 これらの作品は今を時めく『鬼滅の刃』に重なる特徴を持つ。鬼に家族を殺された少年・竈門炭治郎(かまどたんじろう)が仲間と力を合わせて戦う大ヒット漫画は、鬼の苦しみにも心を寄せる主人公の優しさや友への思いが共感を呼ぶが、今村の作品にも同様の雰囲気が漂う。
 例えば、『鬼滅の刃』では「かまぼこ隊」の愛称でファンに親しまれる炭治郎、伊之助、善逸が修業中に「俺たちは仲間だからさ、兄弟みたいなものだからさ。誰かが道を踏み外しそうになったら、皆で止めような」と語り合う神回があるが、『八本目の槍』でも大杉の前で友情を確かめるシーンがあり、涙を誘う。「歴史」×「友情」×「優しさ」は、今の時代を映すキーワードなのかもしれない。
 今村はデビュー作から少年漫画のように胸が熱くなる小説を書いてきた。<3>『火喰鳥(ひくいどり) 羽州(うしゅう)ぼろ鳶(とび)組』(祥伝社文庫、八一四円)は江戸を舞台にした火消(ひけし)の話。ある事件で火が怖くなった元火消、記憶力抜群の剣の達人、力自慢の元力士、風読みの達人ら、一癖も二癖もある男たちが力を合わせて奔走する。シリーズ化され、十冊目まで発売中。こちらも読み応えあり。
 さて、冒頭に紹介した『じんかん』は、漢字で書くと「人間」となる。人と人の間、いわゆる世の中の意味で用いる際はこちらの読みを使う。人との距離、ソーシャル・ディスタンスを意識するようになった今だからこそ、お薦めしたいと思う。鬼滅ロスにお悩みの方、お子さんやお孫さんが鬼滅を好きだという方、次は今村の作品を試してみてはいかがだろうか。
<鬼滅の刃> 大正時代、家族を鬼に殺された竈門炭治郎が生き残った妹を人間に戻すため、鬼と戦う物語。原作は吾峠呼世晴(ごとうげこよはる)。週刊少年ジャンプで2016年から掲載され、今年5月に連載終了後も人気は衰えず。現在20巻まで発行されている単行本累計部数は6000万部以上、今年上半期のオリコンランキングでは史上初となる1位から19位までを独占した。人気に火を付けたTVアニメはBlu−ray&DVDで第10巻まで発売中。劇場版「鬼滅の刃」無限列車編が10月16日(金)公開予定。

『鬼滅の刃』の主人公・竈門炭治郎 (C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

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