<特派員の眼>日本への支援、抗議で断念 韓国でもネット世論の影

2020年6月8日 13時53分

慶州市から奈良市に届いた新型コロナウイルス防疫の支援物資=奈良市のツイッターから

 古代朝鮮・新羅(シラギ)王国の首都として栄え、世界文化遺産に登録されている韓国南東部の慶州(キョンジュ)市が五月中旬、同じ古都として交流する奈良市と京都市に新型コロナウイルス感染対策の防護服やゴーグルを送った。
 奈良市は届いた物資の写真を撮ってツイートし、慶州市に感謝を伝えた。元徴用工訴訟や輸出規制を巡り、日韓政府が対立するなか、悠久の歴史を誇る都市の協力は美談になるかと思われたが、直後に暗転した。
 「親日の売国奴」「チョッパリ(日本人をさげすむ表現)をなぜ助ける」。韓国南東部・慶州市のホームページの掲示板には五月二十二日から三日間で、朱烙栄(チュナギョン)市長や日本人への中傷などを含む抗議の書き込みが約二千件も殺到した。
 慶州市は、栃木県日光市や福井県小浜市などにも物資を送る準備をしていたが、朱市長は二十五日、「私個人への非難は耐えるが、市民も攻撃を受けて胸が痛い」と謝罪し、支援を断念する考えを明らかにした。
 市長はフェイスブックに、経緯や思いをつづった。「医療陣がビニール袋をかぶって、患者の面倒を見ていると、日本の公務員が苦しい実情を伝えてきた。余った防護服を送ろうと、私が指示した」「韓日の歴史に痛みがあっても、過去にとどまってはならない。若者の交流拡大が大切だ」
 それでも、大統領府ホームページの国民請願コーナーには、朱市長の解任を求める投稿が掲載され、約十万人が賛同した。文在寅(ムンジェイン)政権は静観の構えだが、選挙で有権者の負託を受けた自治体トップの人道的政策が、匿名の書き込みによって否定された状況を、異常だと思わないのだろうか。
 韓国のマスコミや学界の反応が鈍いのも残念だ。「親日派のレッテルを貼られたら大変」。この国の知識人の声をよく聞くが、今回の市長攻撃は、親日かどうかでなく、人権侵害のヘイトスピーチに近くないか。
 韓国は今、自国のコロナ防疫が「民主的で透明性の高さ」で成果を上げ、「K防疫」として世界標準になると意気込む。日韓が東アジアの隣国として共に危機に対応すれば、関係の改善につながると期待する外交関係者の声も聞くが、今のままでは程遠い気がする。
 日本では、もうひとつの視点で捉えられる。五月、安倍晋三政権の検察庁法改正案に抗議する「ツイッターデモ」に著名人らが加わり、一強状態にブレーキがかかった。一方で、人気番組に出演していた女子プロレスラーの木村花さん(22)がネット上の人格攻撃を苦に自殺する悲劇も起きた。
 バーチャル空間で増幅した世論や感情が、現実社会の政治や生活、人間関係に及ぼす影響が大きくなっている。ネット社会の課題として、功罪を真剣に見つめるべき時が来ている。(ソウル支局・相坂穣)

関連キーワード

PR情報

新型コロナの新着

記事一覧