神木探偵 神宿る木の秘密 本田不二雄著

2020年5月23日 02時00分

◆樹木への崇敬 根源を探る

[評]いとうせいこう(作家)

 タイトルを見た時から読みたいと思っていた。そして一読、これは自分にとって今年上半期一位の図書だった。
 著者は全国の巨木を訪ね歩き、樹木の偉容を示す写真とともに周辺の土地の様子、伝説、時に日本書紀などの記述を紹介していく。神木探偵。
 ここでは事実の掘り起こしと共に、探偵の勘から来る推理が面白い。例えば著者は、そこがもともと神社だったのか、それとも巨樹があったから神域になったのか考える。
 史実が残っていない地方の人里離れた場所であったり、時には千年を超える話であったりで容易に結論は出ない。だがしかし、我々もなんとなく後者が真実ではないかと考えるのではなかろうか。
 巨木が神性を得て祀(まつ)られる。それを疑問なく受け入れる我々は、つまりそこで仏教以前からの宗教心に触れていることになる。明治時代に禁じられた修験道は、実は今でも日本人の心の奥に生きる。
 私自身、イラストレーターみうらじゅん氏と二十数年、全国の仏像を見て回っているが、樹木と仏像の関係は明らかで、すでに二人の常識として「日本の仏像は神木を残すためにある」と考えている。
 インドなら石で作っていた仏像が、なぜ日本では塑像を経ながら木によって作られたか。むろん資源の豊富さは前提だが、それ以上の理由が日本人の樹木への崇敬にある。
 本書にも出てくるが、仏像にはわざとノミの跡を残すものさえあり、それは「もともとが木である」ことの強調だ。そして立像(りゅうぞう)は時に、あまりに垂直に天を向いて立つ。
 こうした感覚の根源を、著者は柳田國男(やなぎたくにお)からも引く。「本来の神社が聖地ないしは樹林であったことが認められる」。我々はやはり樹木を拝んできたのである。
 また著者は熊本県広報誌から刺激的な記事を見つけ出す。九州全域に分布するメアサという杉の大樹を調べると、二十カ所が同じ挿し木からのクローンだとわかったという。巨木の母株が九州に神木ネットワークを形成したのだとしたら……。ここはぜひ探偵を続行していただきたい。
(駒草出版・1870円)
1963年生まれ。ノンフィクションライター、編集者。著書『ミステリーな仏像』など。

◆もう1冊 

高橋弘著『千年の命 巨樹・巨木を巡る』(新日本出版社)

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